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「はじめまして、愛理嬢……」
「お初にお目にかかります。花園愛理と申します。この度はわたくしの敬愛する琴理姉様を連れ出しやがってまことに一発殴らせてください」
「あ、愛理っ」
出だしこそ丁寧口調だったが、頭を下げることもなく一気に言った愛理を、琴理は慌てて止めた。
「そういうのはしなくていいんですよっ」
「わたくしの腹の虫がおさまらないのですっ」
「ええとそれなら――」
「琴理、愛理嬢に殴ってもらって大丈夫だ。花園殿も俺には言いたいことの十や二十あるでしょう。むしろ殴ってもらった方がいい」
「くそMですのっ!?」
「そんなわけあるかっ。よくある結婚の申し込みの場のやつだ!」
わざとらしく見えるほど驚いた愛理に、心護は渾身の否定をした。
花嫁の両親と妹にそんな誤解されたら色々終わりだ。
愛理は口元に手を添えて『お嬢様の驚き』を見事に表していた。
「心護様、娘が大変失礼を……」
琴理の父と母が揃って頭を下げたが、心護は「そういうのは必要ありません」と答えた。
「愛理さんのことは妹と接していきたいと思っていますので、そう畏まらないでいただきたい」
「ですが――」
「愛理さんとなら気兼ねなく兄妹喧嘩も出来そうなので、ある意味安心しました。愛理さん、どうぞ遠慮せずに『兄様』と呼んでくださいね」
「いやですわ――――! 姉様が可愛いからって、姉様を無視していた時間は取り返せませんもの! わたくしに兄と呼ばせたかったら姉様に頼み込むことですわね!」
「ああもうだから愛理、そう飛ばさないの」
いつ倒れてもおかしくない愛理が大声を出しまくるので、琴理も両親もヒヤヒヤしている。
両親に至っては、格上の家柄である心護に、愛理が暴言を浴びせまくるのでその意味でも心臓が痛い。
琴理は、心護の性格なら愛理の無礼は気にしないんだろうなあと思っていた。
「あの、心護様、今日はわたしだけこちらに来る予定だったと思うのですが……」
心護は、琴理が実家に来ることは知っていた。
けれど帯同するような話はなかったはずだ。
「ああ、一度愛理嬢に会っておきたかったのもあるんだけど……少し、花薗ご夫妻も巻き込まれてほしくて」
そう言って心護は、唇の端をあげた。



