「そうですわー! まっこと悔しいですが姉様はまた戻られてしまうのでした……! 姉様!」
ぶんっ、とすごい勢いで琴理へ顔を向ける愛理。
琴理は驚かずに愛理の頭を撫でた。
「いきなり逃げたりしないからそう興奮するんじゃありません。何かしたいことがあるのですか?」
「ええと……姉様のお子様のお名前を考えたいです!」
「……気が早すぎでは?」
突拍子もない提案に、琴理は間抜けな声で返事をしてしまった。
「そんなことないですっ。準備するに越したことはありませんわっ」
「それはそうだけど……子どもの名前は必要になったそのとき考えましょう。もちろん、愛理にも加わってもらうから」
「………」
愛理の瞳が、瞼に隠れる。
……言いたいことがあるけれど言えない、そんな顔だ。
それを見て、琴理はわかった。
愛理が突然未来の話を始めた理由が。
(愛理……やはり、わたしと同じ不安を……)
毒が愛理を蝕んでいる。その苦しさは、愛理本人が一番わかっているはずだ。
毒はただ苦しめ続けるだけではない。
いつかの先だった『終わり』を早々に連れてくる。
琴理が悪魔を呼び出すという焦った行動に出た原因はこれだ。
愛理の身体が、日に日に弱っていくのを感じて。
両親だって焦っているだろう。『愛理の時間』が削られていくのを、身近に感じているのだから。
そして時を重ねて、愛理が不眠や食欲不振などに見舞われていたら……。
そのとき、ドアをノックする音がした。
「失礼致します。旦那様、琴理様、宮旭日心護様がいらっしゃっております」
「心護様が?」
伝えてきた使用人に琴理が返事をすると、「愛理様のお見舞いとのことです」と続けた。
「応接間へお通ししろ。琴理と私が向かう」
「は」
父の令を受けて、使用人は下がった。
「わたくしも参ります!」
「でも、愛理……」
不眠と食欲不振では体調もよくないだろう。今、眠らないまでも休んでほしいと琴理は思ったが、愛理はこぶしを握った。
「将来のお兄様に一言ご挨拶がしたいのですっ」



