◯芽依の部屋

芽「一緒に住む? なんで!?」
驚いた顔で眉間にシワを寄せる芽依。
比「だから言ったじゃないですか、つきっきりで希望を叶えるって」
芽「頼んでないし!」
比「契約破棄したら府玻さん地獄行きですよ」
冷たい口調と目つきで言う比良坂。言い返せず「くっ」と唇を噛み締める芽依。
芽「だからって一緒に住むとかあり得ないから」
比「あり得なくても決まりなんで。俺の家で一緒に暮らしてもいいけど。あ、俺家事は得意です」
芽依は納得のいかない表情をする。
芽「だいたい急に今日からなんて……掃除だってしてないし、比良坂くんだって着替えとか無いじゃない…」
比「掃除はこの部屋に来た瞬間に終わらせたし、着替えは——」
比良坂が言いかけたところで「ピンポーン」とチャイムが鳴る。
芽(あれ? 今日荷物受け取りの予定なんてあったっけ?)

◯リビング

オートロックを開けようとリビングにあるインターホンの受話器を取る芽依。

芽「はい」
芽(……ってあれ? 今のって部屋のドアのチャイムじゃなかった?)
受話器「……」
受話器からは応答がない。

「ガチャ」っとドアを開ける音が聞こえる。
続いて「ありがとうございます」という比良坂の声聞こえる。
芽依は慌てて玄関の方へ向かう。

◯玄関

急いで玄関に走った芽依が、壁越しにひょこっと顔を出す。
芽「ちょっと! ひとの家で勝手に——」(荷物を受け取らないで、と言いたかった)
目の前の光景に目を見開く。真っ白になる。
キャップを被ったガイコツが、比良坂に荷物を渡している。(リアル目ながらも笑顔のガイコツ)
芽「——キャーッッッ!!」(声になっていないような芽依の叫び声が響くコマ)
比「あ、やべ」

◯リビング

芽依が目を覚ます。比良坂が上から心配そうに顔を覗き込んでる。
リビングのソファの上で彼にひざ枕をされている。
ソファの前にはガラスのローテーブルがある。

芽「え、私……?」
比「府玻さん、宅配便屋さん見て倒れちゃって」
比良坂の言葉に先ほどの光景を思い出してゾッとする芽依。
芽「ガ、ガイコツ……もういないって言ったじゃない」
比「あー……さっきのは冥界の宅配便の配達人で、死神みたいに一般の人間に会う仕事じゃないからいまだにガイコツの姿なんですよね。怖いものじゃないから安心してください」
芽(何よそれ……)
芽「あんなの見ちゃったら信じるしかないじゃない……」
比良坂ののひざの上で両手の甲で覆うように目を隠す芽依。
比「俺の必要な物、届けてもらった。便利なんすよね、一瞬で届けてくれて」
芽「……なんかもう、好きにしてって感じ」
ゆらっと力なく上体を起こす芽依。そのままソファに腰掛ける。
芽「死ぬのね、私」
比「……はい」
一瞬のためらいを感じさせる表情の比良坂。
芽依、「はあっ」と深いため息をつく。諦めたような表情。
芽「まだ三十なんだけど」
無言で芽依の肩を抱き寄せる比良坂。抵抗せず身を任せるように寄りかかる芽依。

●しばらく沈黙が続く(15分ほど時間経過)

比「昼飯にしません? デリバリーで良ければ奢りますよ」
肩を抱いたまま沈黙を破る比良坂の言葉。ずっと前を見たまま。
芽「食欲なんてあるわけないじゃない」
眉を寄せる芽依。
比「食べても食べなくても、四か月後には死ぬんですよ」
無表情の比良坂。
無神経な言葉に逆撫でされ、体を離し、思わずムッとして睨んでしまう芽依。
比「でも、四か月は絶対に生きてる」
無表情の比良坂。
芽「え……」
比「予想外に死期を宣告されて落ち込んでるかもしれないけど、もともと誰だっていつまで生きられるかわからないですよね。時期がわかってるならそれまで楽しく生きた方が良いんじゃないですか?」
芽「たしかにそうかもしれないけど、そんなに簡単に割り切れない」
悲しげな表情をする芽依。
比「……案外死なないかもしれないし」
まだ前を見たまま、つぶやくように言う比良坂。
芽「え? そんなことあるの?」
比良坂の方を見て聞く芽依。軽く見上げている。
比良坂も芽依の顔を見下ろす。
比「いえ、そんな話は聞いたことないですけど」
真顔の比良坂。期待の梯子を外されて茫然とした顔の芽依。
芽「最っ低! ひとが真剣に困ってるのにテキトーなセリフで慰めようとしないでよ。そういうの、余計に残酷」

怒りで赤面する芽依。
そのままスッと立ち上がると、怒った顔で比良坂を見下ろす。

芽「寿司! ウニと大トロが入ってるやつ!」
比「え?」
芽「お昼、奢ってくれるんでしょ? よろしく。私、比良坂くんが使える部屋の準備してくる」
芽依の言葉に彼は一瞬呆然として無言になる比良坂。
すぐに眉を下げて笑って「わかりました」とスマホを出す。
(怒りで元気になった芽依に対しての苦笑いの表情)

●三十分ほど経過(デリバリーが届く時間)

リビングルームのガラステーブルの上に届いた寿司の桶が二つ並んでいる。ウニと大トロが入っている高級寿司。
二人はテーブルを挟んで向かい合い、カーペットに直に座っている。
箸を持って話している。
仕事着から着替えた二人。
芽依:パーカーにフレアスカート
比良坂:カジュアル感のある無地のシャツにズボン

芽「ところで、『掃除はこの部屋に来た瞬間に終わらせた』ってどういうこと? たしかに部屋が勝手に片付いてたんだけど」
芽依、寿司を箸で掴みながら聞く。
芽「それも手品みたいなやつなの?」
比「だから手品じゃないって。どっちかっていうと魔法?」
寿司を口に運びながら話す比良坂。表情は不満そう。
比「死神って生死に関わる……いわば人間の生きる時間に関わる仕事だから、時間を操ることができるんです」

※時計のイメージカットのコマ

芽「時間? 時間と片付けって結びつかないけど」
比「部屋の中の物の時間を戻したんです。府玻さんが普段それの〝あるべき場所〟だって指定してる場所にあった時まで。逆にホテルで見せたバラの花は時間を早送りした感じです」

比良坂の言うことを頭の中でなんとなく想像してみる芽依。
※物が自ら棚などに戻っていく想像図。

芽「……よくわからないけど、便利そうなのはわかった。仕事でも使ってるの? それ」
比「仕事って、本業の方でってこと?」
頷く芽依。
比「使わない、っていうか使えないです。基本的に死神の業務に関係があることにしか使えない。今日の片付けは俺がここに住むために必要だから許されてるだけ」
芽「そうなんだ」
比「この力で仕事取ってると思ったんですか?」
拗ねたようにムッとする比良坂。
芽「違う。そうじゃないと良いなって思ったの。営業としての比良坂くんは一生懸命頑張ってるって教育係の頃から思ってたから、安心した」
芽依、箸を持ったままニコッと笑う。
比良坂、少し照れくさそうな顔をする。
芽「比良坂くんでも照れたりするんだ。かわいいところあるじゃない」
ニヤッと笑う芽依。
比「府玻さんに不意打ちで褒められたら照れます」
真剣な顔で芽依を見る比良坂。
急に向けられた熱い視線に驚く&気まずくなってパッと視線を逸らす芽依。

◯芽依の家の一室のドアの前

昼食が終わり「しぶしぶ」という表情で比良坂に家の中を案内する。
平均的な同年代の一人暮らしより広いであろう室内。(3LDKくらい)

芽「で、ここが比良坂くんが使っていい部屋。前に弟が住んでたから、家具もまだ少し残してある」
比良坂は室内を見回す。
比「府玻さんと同じ部屋で寝たいんですけど」
芽依を見てイタズラっぽい笑みを浮かべる比良坂。
芽「そういうこと言うなら出て行って」
冷たく突き放すように言う芽依を、壁際に追い詰める比良坂。
芽「ちょっ……」
比「昨夜(ゆうべ)の続き、しようよ。〝芽依〟さん」
妖しく微笑む比良坂。
芽「私、弟がいるから年下ってダメなの」
俯いて目を逸らす芽依。

比良坂、芽依の顎をクイっと上げて、唇を奪う。
※ディープキスの描写。

芽「……んっ」
快感を感じそうになりつつも必死に抗って比良坂を突き放す芽依。
比良坂を睨む芽依。
比「年下がダメだって言うなら、昨日だってホテルに行かなかったはずだよね」
芽依を見下ろして不敵な笑みを浮かべる比良坂。
芽「昨日はどうかしてたの。酔ってたし」
また気まずそうに俯く芽依。
比「ふーん……」
つまらなそうな表情の比良坂。
芽「もう家のことはわかったでしょ? 私、やることがあるから」
壁のように自分を捕まえていた比良坂の身体を振り解いて、自室に向かおうとする芽依に、比良坂が後ろから声をかける。
比「芽依さんの好きな人って、やっぱり年上なんだ」
驚いて振り返る芽依。
比「昨日の様子じゃうまくいってなさそうだけど」
芽「……」
黙って部屋を出る芽依。

◯芽依の部屋

不安な表情で、部屋のドアに寄りかかって考える芽依。

芽(〝やっぱり〟って、比良坂くん何か気づいてる? それとも適当に言っただけ?)

「ブー……」と芽依のスカートのポケットに入っているスマホが震える。
メッセージ(スマホ画面・吹き出し型)【昨日はごめん。急な用事で断れなかったんだ】

芽(……嘘つき)
悲しげに顔を歪めてスマホを握りしめる芽依。

◆芽依モノローグ
今日はあまりにもいろいろありすぎて嫌なことも考えずに済んだ。まだ全然信じられないことばっかりだけど、それだけは助かった。

芽(未練……やり残したこと。あと四か月、か)
深いため息をつく芽依。

◯ダイニング(夜七時)

夕飯のパスタを食べながら会話をする二人。
テーブルにパスタ、スープ、サラダが並ぶ。

比「何か未練になりそうなこと見つかりました?」
芽「うーん……そう言われても」
芽(当たり前のように夕飯作ってくれたけど、家事が得意って本当なんだ)
感心している芽依。
比「少なくともその色の分だけはあるはずですよ。四か月なんてあっという間なんだから、どんどん行動していかないと」
比良坂は芽依の燻んだブレスレットをフォークで指す。
比「難しく考えなくても、ずっと行きたかった場所とか、食べたかった物とか。昨日言ってた母親の手料理でもいいし」
比良坂に言われ、眉を寄せて考えてみる芽依。
芽(まだ半信半疑なところもあるし、急に実家に帰るっていうのもなあ。行きたかった場所……食べたかった物……)
芽(あ)
芽依の脳裏にかわいらしい雰囲気の店が浮かぶ。
※かわいい感じのフルーツパーラーの絵
芽「じゃあ明日、付き合ってもらいたいところがあるんだけど……」