「まずは電話の説明ね。内線と外線の違いと、転送のやり方」

3人の若い社員も外回りに出掛け、課長と二人きりになった部屋で早速凛は仕事を教わる。

「基本的に営業マンは会社スマホを持ち歩いてるから、クライアントもそっちにかけることが多いけど、念の為主なクライアント企業は頭に入れておいて」
「はい、かしこまりました」
「あと、営業マンの持ってるスマホの番号は全部このアドレスに入ってる。まだ顔と名前は一致しないと思うけど、メンバーの名前だけは徐々に覚えていってね。あとは…、あ!社内を案内しないとな」
「お手数おかけして申し訳ありません」
「いやいや。俺は今日はずっと内勤だから気にしないで」

立ち上がった課長に続いて、凛も部屋を出た。

長い廊下を歩きながら、課長が各部屋の説明をしてくれる。

「ひとくちに広告代理店と言っても違いがあるんだ。あらゆるメディアの広告を扱う総合広告代理店と、特定のメディアの広告だけを扱う專門広告代理店。あとは特定企業専属のハウスエージェンシー。主にこの3つに分類されるんだけど、うちは総合広告代理店に当たる。だから所属する部署も多いんだ。フロア別に紹介するね」

ガラス越しに中の様子がうかがえる部屋を、凛は課長の言葉を聞きながら見て回る。

「我々の営業部が3階フロア、マーケティング部は4階、クリエイティブ部が5階、プロモーション部が6階、メディア部は7階なんだ。あとはラウンジとカフェテリアね。コンビニは地下1階で社員食堂は8階。景色もいいよ…って言っても、外回りの俺達はほどんど行く暇がないけどね」
「そうなのですね。大変ですね」

凛が神妙な面持ちでそう言うと、課長は少し肩をすくめた。

「まあね、営業だから仕方ない。立花さんは12時から13時までが昼休憩だから、行ってみるといいよ。女性一人でも気軽に行ける雰囲気だから」
「この会社は女性社員も多いのですか?」
「ああ。営業一課は残念ながら男ばっかりだけど、二課は女性が半数ほどいる。クライアントが化粧品会社やアパレル関係がメインだからね。あとはクリエイティブ部も女性が多いよ。Webサイトの運営やCMプランナー、あとはコピーライターなんかも女性が活躍してる」

話の内容に圧倒されて、凛は、へえーとしか相づちが打てない。

「まあ、そのうちだんだん分かってくると思うよ。まずは、社内で迷子にならないこと。これが今の立花さんのミッションかな」
「あはは!はい、頑張ります」

営業マンだけあって、人当たり良く話しやすい雰囲気の課長に、凛はすっかり緊張もほぐれていた。