「お待たせ致しました。お嬢様のお支度整いました」

声をかけられて顔を上げた航は、螺旋階段を下りてくる凛の姿に思わず息を呑んで目を見張った。

ワインレッドの膝丈のドレスにハイヒール、髪もアップでまとめ、イヤリングやネックレスがキラキラと輝いている。

こんなにもスタイルが良かったとは。
そして何より、綺麗にメイクされてまるで別人のように美しい。

ゆっくりと足元を確かめながら近づいて来た凛に、航はかける言葉を失う。

見とれていると、凛の表情が今にも泣きそうなのに気づき、航は慌てて顔を覗き込んだ。

「どうしたの?」
「だって、有無を言わさず身ぐるみ剥がれて、こんなスースーする格好させられて。追い剥ぎにあった気分です」
「…は?追い剥ぎ?」

航がポカンとすると、そばにいたスタッフが苦笑いする。

「お嬢様、とてもお似合いですのに、こんな格好は嫌だと…。河合様からも何かお言葉をかけてあげてください」
「あ、うん。すごく似合ってるよ?」

そう言っても凛はうつむいたままだ。

「でも着慣れないし、田舎者には似合わないです。芋っ子ってバレちゃう…」
「だから芋っ子じゃないって。そんな顔しないの。せっかくの美人が台無しだぞ?」

航がチョンと凛の鼻をつつくと、おずおずと顔を上げた。

「ほら、行こう」

左肘を差し出すと、凛は首を振る。

「大丈夫。私、竹馬は得意だから」
「は?竹馬?」

スタッフがまた苦笑いで補足する。

「ハイヒールが竹馬みたいだと。河合様がエスコートしてくださると申し上げたのですが…」

なるほど、と航はただ真顔で呟くばかりだ。

「大丈夫です。ほら、ね?」

両手を広げて少し歩くと、凛はドレスをふわりと揺らしながら得意気に振り返る。

その笑顔に、航はようやく頬を緩めて頷いた。