「ただいまー、人感くん」

玄関を開けた凛が、足を踏み入れながら天井を見上げて呼びかける。
パッと電気が点き、思わず航は笑い出した。

「あはは!毎日そう言ってるの?」
「そうなんです。うっかり忘れると、急に明るくなって驚いちゃうので」
「ははは!俺も今度から真似しようかな」
「ええ、楽しいですよ。電気が点くとお返事してくれてるみたいで」
「そうだな」

二人して笑いながらキッチンに行く。
冷蔵庫に買ってきた食料品を入れると、ソファでコーヒーを飲むことにした。

「はい、これ」

航がラッピングされた箱を差し出すと、凛はキョトンとする。

「何ですか?これ」
「プレゼント。喜んでもらえるといいんだけど」
「ええ?プレゼントって、どうして?」
「んー、日頃の感謝を込めて。いいから、ほら、開けてみて」

凛は戸惑いながら、そっと包みを開けて箱のフタを取る。
次の瞬間、驚いて目を見開いた。

「こ、これ…」
「合ってたかな?君の欲しかった物で」
「どうして?なぜこれだって…」
「実を言うと確信が持てなくてさ。ボトルとマグカップ、どっちが欲しかったの?」
「どっちもです。お揃いで持つと可愛いなって…」
「そうなんだ。それなら良かった」

ホッとして笑いかけると、凛は顔を上げて航を見つめる。

「河合さん、ありがとうございます。私、びっくりして、でも本当に嬉しくて…。プレゼントもお気持ちも、すごく嬉しいです」
「どういたしまして。そんなに喜んでもらえると、俺まで嬉しいよ」
「ありがとうございます。大切にします」

凛は涙で声を詰まらせる。

「え!どうしたの?大丈夫?」
「ごめんなさい。嬉しすぎて、つい…」

慌てて涙を拭う凛に、航はふっと笑いかけた。

「君は本当に純粋だね。それにいつも人のことばかり気遣ってる。君こそ誰かに大切にされるべき人だよ」

そう言ってポンと凛の頭に手を置く。
凛は泣き笑いの表情で航を見上げた。

「河合さんこそ、誰よりも優しい方です。私、河合さんに出逢えて本当に良かった…」

潤んだ瞳で見つめられ、航は思わず言葉を失くす。
と同時に、木原の言葉が頭に蘇ってきた。

『我らがシンデレラ』と皆から信頼されている凛。
そんな彼女と内緒で暮らしている自分。

何とも言えない罪悪感が、航の心の中に広がっていった。