君との恋のエトセトラ

すぐに先方との面接がセッティングされ、凛は派遣会社の担当者と一緒に『スタークリエイティブエージェント』の本社を訪れた。

「うわ、すごいですね」
「本当。さすがよね」

高々とそびえる自社ビルに最新の設備やセキュリティシステム。
自然光をふんだんに取り入れた明るい吹き抜けの空間デザイン。

大都会の一流企業とは、こうも格が違うものかと凛は圧倒されて立ち尽くす。

「じゃあ、行きましょうか」
「はい」

促されて凛はバッグを持つ手に力を込めた。

受付を済ませるとラウンジに案内され、すぐに40代半ばくらいの男性社員が現れた。

「お待たせしました。スタークリエイティブエージェントの営業部第一課、課長の進藤(しんどう)です」

にこやかに名刺を差し出されて、凛は深々とお辞儀をする。

「初めまして。立花(たちばな)と申します。本日はお忙しい中お時間を頂戴し、ありがとうございます」
「こちらこそ。さあ、どうぞ座ってください」
「はい、失礼致します」

腰を落ち着けると、すぐさま進藤と名乗った課長が口を開く。

「えー、立花さんでしたね。うちは今まで社員だけでやってきたんだけど、営業は外回りがメインでね。事務所はもぬけの殻になることも多いんです。他の部署から、なかなか捕まらなくて業務に支障をきたすとクレームも来るし、出先で必要な資料を事務所にいる人に転送して欲しくても誰もいない、なんてことが増えて困っていたんだ。君には事務所でそういった雑務をお願いしたい。どうかな?明日から来てもらえる?」

…は?!と凛は面食らう。

「あ、あの、わたくしでよろしいのでしょうか?」
「うん。他にも何人か応募は来てるけど、最初に面接に来たのが君だ。だから君にお願いするよ。こういうのは流れと縁に任せた方がいい。営業マンの勘です」
「は、はい。それでは、どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそ。じゃあ、明日の9時にまたここで」
「かしこまりました。よろしくお願い致します」

そんなふうに、あっという間に凛の勤務先は決定したのだった。