君との恋のエトセトラ

「よーし!今夜は朝までカラオケだー!」
「おー!」

居酒屋を出ると、木原を先頭に皆はぞろぞろと歩いて行く。

(うーん…、朝まではちょっと)

どうしたものかと凛が戸惑っていると、ふとこちらを振り返った航と目が合った。

「送るよ。行こう」

近づいて来た航がすれ違いざまにそう言い、大通りへと向かう。

「あの、皆さんにご挨拶しなくて大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。みんな酔っ払って覚えてないから」
「そうですか。でも河合さんは?カラオケに行かなくてもいいのですか?」
「うん。俺、音痴だから」
「そうなんですか?!」

思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を押さえる。

「何?俺が音痴だとそんなに不思議?」
「いえ、あの。河合さん、何でもかっこよくサラッとこなすイメージだったので…」
「そう?全然だよ。あ、タクシー止まったね」

ハザードをつけて少し前に止まったタクシーに、二人で乗り込む。

「えっと、新居の住所は?」
「あ、実はまだ以前と同じマンスリーマンションに住んでいまして…」
「そうなの?」

ひとまず運転手に行き先を告げてから、航は凛に尋ねた。

「いいところ、まだ見つからないの?」
「はい。東京って家賃もすごく高いんですね。不動産屋さんに予算を言ったら笑われてしまって…。どんな田舎の話をしてるんですか?って。それに、その。お恥ずかしい話ですが、保証人がいなくて。たとえ安いアパートでも、私の母では保証人になれないそうです。父は既に他界していまして、頼れる親戚もいないので…」
「そうか…」

そう言った切り腕を組んで考え込む航に、凛は小さく頭を下げる。

「すみません。色々お気遣い頂いて、アドバイスしてくださったのに」
「いや、そんなことは気にしなくていいよ。でもこれからどうするつもり?」
「とりあえず今のまま、マンスリーマンションで生活するしかないのかなと」
「それって、割高じゃない?」
「そうなんです。母は病気で働けなくて、高校生の妹の大学進学の為にも私が貯金しなくてはいけないのですが…」

えっ…と航が目を見開くと、凛は慌てたように付け加えた。

「でも、この会社で働かせて頂いて本当に感謝しています。もうすぐ最初のお給料が入るので、少しは仕送り出来そうですし」

だが航はじっと宙を見据えたまま返事をしない。

「あの、河合さん?」

凛が声をかけると、航は急に視線を上げて身を乗り出した。

「運転手さん。ここで止めてください」

そう言うと支払いを済ませ、ポカンとしている凛の手を取ってタクシーを降りる。

「少し時間ある?そこのカフェで話をしたいんだ」
「は、はあ…」

スタスタと歩いて行く航を追って、凛も店内に入った。