「はあ…」

外に出ると、凛は大きく息を吐く。
それでもまだ気持ちは収まらなかった。

再び涙が溢れてきて、思わず両手で自分を抱きしめた時だった。

「凛ちゃん!」

振り向くと、自動ドアから木原が飛び出してきた。

「大丈夫?どうしたの?」
「いえ、あの。何でもありませんから」
「そんな訳ないだろう?ちょっと、こっちへ」

凛の手を引いて人通りの少ない路地に行くと、木原は凛の両肩を掴んで真剣に口を開く。

「何があったの?話してみて」
「何もないんです、本当に」
「だったらどうしてそんなに泣いてるの?」
「それは、その。自分でもよく分からなくて…」

すると木原は、いきなり凛を胸に抱きしめた。

「あ、あの、木原さん?」
「凛ちゃん、ゆっくり深呼吸して」
「え?あの…」
「いいから、ほら」

戸惑いながらも凛は大きく息を吸ってから、ふう…とゆっくり肩を下げた。
身体から力が抜けて、気持ちが少し落ち着く。

木原はそんな凛の頭を撫でてから、そっと身体を離した。

「どう?少しは落ち着いた?」
「はい」
「良かった。凛ちゃん、自覚はないけどきっと色々思い詰めてたんじゃないかな?たまには息抜きしないとダメだよ」
「息抜き、ですか?」
「そう。お休みの日はいつも何してるの?」
「えっと、部屋の掃除とか買い出しとか…」
「それだけ?だから息が詰まっちゃうんだよ。せっかく上京したのに、どこにも遊びに行ってないの?」
「えっと、そう言えばそうですね」
「ヤレヤレ。じゃあ、次の休みに遊びに行かない?」

え?と凛は顔を上げる。

「あ、デートじゃないよ。友達と遊びに行くってやつ。どこでも行きたいところに連れて行ってあげるよ。ね?1日くらい遊ぼうよ」

うーん、と凛はうつむいて考える。

「特に行きたいところもないですし…」
「それは1度行ってみてから。まずはお試しで遊びに行こう。それでも面白くなかったら、もう行かなければいいよ」
「はあ…」
「じゃあ明後日の日曜日、朝10時に車で迎えに行くよ。どこに行くか考えておいてね」

あまり実感が湧かないまま、凛は小さく頷いた。