凛が通話を終えると、今度は航が早口で話しかけた。

「飛行機のチケットを取った。今すぐタクシーで羽田に向かおう」
「え、ええ?!飛行機ですか?」
「いいから早く!」

航は手を挙げてタクシーを止めると、凛を促して「羽田空港まで」と運転手に告げる。

そしてどこかに電話をかけ始めた。

「もしもし、スタークリエイティブエージェントの河合です。いつもお世話になっております。伊藤さん。申し訳ありませんが、今日の打ち合わせはメールでのやり取りに変更させて頂けませんでしょうか?はい、はい。ありがとうございます。ではすぐに資料を送信致します。よろしくお願い致します。はい、失礼致します」

ええ?!と凛は航に詰め寄る。

「河合さん!一体何を?打ち合わせの変更って、大事なクライアントにそんな…」
「いいから君は課長に連絡して。これから俺と君で長崎に行くって」
「ええ?!河合さんまで?」
「いいから、早く!」

そう言うと航はまた別のクライアントに電話をかけ始めた。

仕方なく凛は言われた通りに課長に連絡する。

『えっ!大丈夫なのかい?お母さんの様子は』
「はい。近所のお医者様に往診をお願いしました。今頃診てもらっているかと」
『そう。こちらのことはいいから、君も気をつけて行っておいで。河合が一緒なんだね?それなら良かった』
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」

電話を終えて隣を見ると、航は膝の上にノートパソコンを広げ、肩と耳でスマートフォンを挟みながらカタカタとキーボードを打ち込んでいる。

「はい、今送信しました。ご確認頂けますか?ご不明点などありましたら、メールでお知らせ頂ければと。はい、はい。申し訳ありませんがよろしくお願い致します」

航はひたすらその繰り返しで、結局凛はひと言も言葉を挟めないまま空港に着いた。