「かんぱーい!」

また月末恒例の飲み会がやって来た。

今月も成績トップはやはり航だったが、僅差で2位に木原がつけている、と課長が話すと、おおー!とどよめきが起きる。

「木原さん、行っちゃってくださいよ。来月こそ河合さんを追い抜いてください!そしたら俺、凛ちゃんに告白するんで」
「アホか、お前は。意味分からん」

身を寄せてくる戸田をあしらって、木原はビールを飲みながらふと凛に目を向けた。

いつものように、笑顔で社員にビールを注いで回っている。

「あーあ、家でも凛ちゃんにビール注いでもらいたいなー。俺だけに笑いかけてくれないかなー」

隣でまだぶつぶつと戸田が呟く。

(家で、俺だけに笑顔を…)

気づくと頭の中で戸田の言葉がこだましていた。

(いかん、何を考えているんだ?俺は)

きっぱりとプロポーズを断られたにも関わらず、木原は凛を諦め切れずにいた。

(結婚は考えられなくても、恋人になるだけならOKしてもらえるかも。いや、そんなことを言うなんて女々しい男だと思われたら?だったら、凛ちゃんが惚れるような男になってみせる。航を抜いて成績トップになり、黙って仕事で結果を出す男になる)

そう思い、最近は仕事に邁進していた。
だが、航の成績を抜けば少しは自信がつくかと思いながらも、航のことが気になって仕方ない。

航は凛を支え続けている。
同棲を解消して凛を自由にしつつも、凛の懸念や不安を取り除き、毎日を生き生きと暮らす手助けをしている。

どうして自分ではないのだろう。
航は、凛を助けた経緯はたまたまだと言っていた。
ひょんなことから凛の状況を知ったのが始まりだったと。
その相手がなぜ航だったのだろう。
自分が最初に凛の相談に乗っていれば、凛はプロポーズを受け入れてくれたかもしれない。
そう思うのは浅はかだろうか?

今も凛は誰ともつき合う気配はなく、航とも何もなさそうだ。
特に想いを寄せている相手がいるようにも見えず、ただ毎日楽しそうに戸田や他の社員にも笑顔で接している。

それならいつか自分にもチャンスが来るかも?と思う自分は、単に往生際が悪い男なのだろうか?

いや、何と思われようと構わない。
必ず航の成績を追い抜き、成長し、自信をつけて凛にもう一度告白する。

木原はそう固く心に決めた。