「なんかいいわね。たまにはこうやって早く店じまいするのも」
「ああ。俺もあとで銭湯にでも行こうかな」
「あら!あそこは私のお城なの。おじさんはついて来ないで」
「なーにがお城だよ」
二人の会話を、凛は微笑ましく見守る。
(お父さんとお母さんも、こんな他愛もない話を楽しんでいたな)
子どもの頃のかすかな記憶が蘇ってきた。
「夫婦の会話っていいですね。憧れちゃうな」
「凛ちゃん…」
妙が神妙な面持ちになる。
すると勝治が明るく笑い飛ばした。
「凛ちゃんは、こんなシケた会話をする夫婦にはならないよ。セレブなマダムってやつだな、きっと」
「やだ、勝さん。私、田舎者ですよ?ほっかむりと割烹着が似合うおばちゃんになりますって」
「凛ちゃんなら、どんな格好でも可愛いわね」
そう言って妙も優しく笑う。
3人で楽しくおしゃべりをしていると、ごめんくださいと誰かが引き戸を開いた。
「はーい、ごめんなさい。今日はもう閉店…、ちょっ、凛ちゃん!」
店の中に声をかけていた妙が驚いたように振り返り、ん?と凛も和室から顔を覗かせた。
「え、河合さん?」
身を屈めるように店内に入って来たスーツ姿の背の高い男性は、紛れもなく航だった。
妙も勝治も、そして凛も、中腰のままポカンとする。
「夜分にすみません。少しお話させて頂きたいことがありまして」
お辞儀をしてから口を開いた航に、まだ3人は時が止まったかのように固まっている。
「急に押しかけてしまい申し訳ありません。少しだけお時間頂けますでしょうか?」
「あ、は、はい!もちろんです。どうぞ」
「はい、失礼致します」
慌てて妙が航を和室に招き入れ、座布団を勧めた。
「むさ苦しいところですみません」
「いえ、とんでもない。お忙しい時間に突然お邪魔してすみません。実は、彼女のアルバイトの件でご相談がありまして」
「凛ちゃんの、ですか?」
「はい」
航の隣で凛はキョトンとする。
「現在の彼女のシフトですが、どのようになっていますでしょうか?」
「えっと…。一応、月水金の19時から22時までと、土曜日の12時から21時までです。どうしても人手が足りないという訳ではなく、私の息抜きの為に凛ちゃんに代わってもらってる感じで…」
「なるほど。それでしたら、彼女のシフトを少し減らして頂くことは可能でしょうか?」
「ええ、うちは全然構いません。ねえ、あんた」
妙に聞かれて勝治も頷く。
「ああ。凛ちゃんの好きな時に来てくれればいい。ほんの少し顔を出してくれるだけで助かるよ。それに凛ちゃんの体調も心配だ。フルタイムで働いた後にうちでアルバイトするのは無理がある。凛ちゃんには、土曜日のランチタイムだけ来てもらえればと思ってたんだ。だけど、それだと凛ちゃんに渡せる給料がなあ…」
「ごめんね、安い時給で」
肩を落とす二人に、凛は慌てて手を振って否定する。
「そんな!私はここで働かせてもらえて感謝しています。お金よりも、お二人に会えるだけで楽しくて」
「嬉しいこと言ってくれるねえ、凛ちゃん」
勝治はしみじみと言いながら目を細める。
「あの、お金のことは抜きにしてお話させてください。お二人は、彼女が土曜日だけの勤務になっても構いませんか?」
航が妙と勝治を見比べながら聞くと、二人は大きく頷いた。
「もちろん。凛ちゃんの身体の為にもそれがいいと思うわ。私達も、凛ちゃんを無理させてるんじゃないかって心配だったから」
「分かりました。君は?ほんの少しだけでもここで働きたいんだよね?」
急に航に振り返られ、凛は慌てて返事をする。
「は、はい。お二人に会えるのが私の喜びなので」
「分かった」
小さく頷くと、航は居住まいを正して勝治と妙に向き合った。
「お二人にお願いがあります。今後、彼女のシフトは土曜日のみにさせて頂けますでしょうか?金銭的な懸念はご無用です。その分、彼女には私の部屋のハウスキーピングを依頼し、それ相応の給料を支払います」
…は?と3人は目を丸くする。
「そして彼女が心身共に元気でいられるよう、必ず私がそばで見守ります。勝手な申し出ですが、お許し頂けないでしょうか?どうかよろしくお願い致します」
そう言って航は深々と頭を下げた。
「ああ。俺もあとで銭湯にでも行こうかな」
「あら!あそこは私のお城なの。おじさんはついて来ないで」
「なーにがお城だよ」
二人の会話を、凛は微笑ましく見守る。
(お父さんとお母さんも、こんな他愛もない話を楽しんでいたな)
子どもの頃のかすかな記憶が蘇ってきた。
「夫婦の会話っていいですね。憧れちゃうな」
「凛ちゃん…」
妙が神妙な面持ちになる。
すると勝治が明るく笑い飛ばした。
「凛ちゃんは、こんなシケた会話をする夫婦にはならないよ。セレブなマダムってやつだな、きっと」
「やだ、勝さん。私、田舎者ですよ?ほっかむりと割烹着が似合うおばちゃんになりますって」
「凛ちゃんなら、どんな格好でも可愛いわね」
そう言って妙も優しく笑う。
3人で楽しくおしゃべりをしていると、ごめんくださいと誰かが引き戸を開いた。
「はーい、ごめんなさい。今日はもう閉店…、ちょっ、凛ちゃん!」
店の中に声をかけていた妙が驚いたように振り返り、ん?と凛も和室から顔を覗かせた。
「え、河合さん?」
身を屈めるように店内に入って来たスーツ姿の背の高い男性は、紛れもなく航だった。
妙も勝治も、そして凛も、中腰のままポカンとする。
「夜分にすみません。少しお話させて頂きたいことがありまして」
お辞儀をしてから口を開いた航に、まだ3人は時が止まったかのように固まっている。
「急に押しかけてしまい申し訳ありません。少しだけお時間頂けますでしょうか?」
「あ、は、はい!もちろんです。どうぞ」
「はい、失礼致します」
慌てて妙が航を和室に招き入れ、座布団を勧めた。
「むさ苦しいところですみません」
「いえ、とんでもない。お忙しい時間に突然お邪魔してすみません。実は、彼女のアルバイトの件でご相談がありまして」
「凛ちゃんの、ですか?」
「はい」
航の隣で凛はキョトンとする。
「現在の彼女のシフトですが、どのようになっていますでしょうか?」
「えっと…。一応、月水金の19時から22時までと、土曜日の12時から21時までです。どうしても人手が足りないという訳ではなく、私の息抜きの為に凛ちゃんに代わってもらってる感じで…」
「なるほど。それでしたら、彼女のシフトを少し減らして頂くことは可能でしょうか?」
「ええ、うちは全然構いません。ねえ、あんた」
妙に聞かれて勝治も頷く。
「ああ。凛ちゃんの好きな時に来てくれればいい。ほんの少し顔を出してくれるだけで助かるよ。それに凛ちゃんの体調も心配だ。フルタイムで働いた後にうちでアルバイトするのは無理がある。凛ちゃんには、土曜日のランチタイムだけ来てもらえればと思ってたんだ。だけど、それだと凛ちゃんに渡せる給料がなあ…」
「ごめんね、安い時給で」
肩を落とす二人に、凛は慌てて手を振って否定する。
「そんな!私はここで働かせてもらえて感謝しています。お金よりも、お二人に会えるだけで楽しくて」
「嬉しいこと言ってくれるねえ、凛ちゃん」
勝治はしみじみと言いながら目を細める。
「あの、お金のことは抜きにしてお話させてください。お二人は、彼女が土曜日だけの勤務になっても構いませんか?」
航が妙と勝治を見比べながら聞くと、二人は大きく頷いた。
「もちろん。凛ちゃんの身体の為にもそれがいいと思うわ。私達も、凛ちゃんを無理させてるんじゃないかって心配だったから」
「分かりました。君は?ほんの少しだけでもここで働きたいんだよね?」
急に航に振り返られ、凛は慌てて返事をする。
「は、はい。お二人に会えるのが私の喜びなので」
「分かった」
小さく頷くと、航は居住まいを正して勝治と妙に向き合った。
「お二人にお願いがあります。今後、彼女のシフトは土曜日のみにさせて頂けますでしょうか?金銭的な懸念はご無用です。その分、彼女には私の部屋のハウスキーピングを依頼し、それ相応の給料を支払います」
…は?と3人は目を丸くする。
「そして彼女が心身共に元気でいられるよう、必ず私がそばで見守ります。勝手な申し出ですが、お許し頂けないでしょうか?どうかよろしくお願い致します」
そう言って航は深々と頭を下げた。



