翌日。
すっかり元気になった凛を連れて、航は車でマンスリーマンションへ向かった。

凛が着替えを取ってくると、その足でアルバイト先の弁当屋に挨拶に行く。

「こんにちは。お休みの日にすみません」

店の横の玄関で凛が声をかけると、妙と勝治が奥の部屋から出てきた。

「凛ちゃん!身体はもう大丈夫なの?」
「はい、もうすっかり良くなりました。昨日はお休みさせて頂いてすみませんでした」
「そんなの全然気にしないで。それより心配だったのよ。凛ちゃん、一人暮らしだから、何かあったらどうしようって。でも電話の人がついててくれたの?」

あ、はい…と、凛は後ろを振り返る。

ん?と妙が凛の視線を追うと、航が玄関に姿を現した。

「初めまして、河合と申します。突然お邪魔して申し訳ありません」

すると妙は、両手で頬を押さえて騒ぎ出す。

「ひゃーー!イケメンが来たわ!どうしよう、あんた。あ!色紙あった?ほら、サインもらわないと!」
「バカ野郎、何をうろたえてるんだ。えっと、あの。もしや、うちの娘をもらいに?」
「は?あんたこそ何言ってんの。凛ちゃんはうちの子じゃないでしょ?」
「いや、凛ちゃんは俺達にとって娘も同然だ」
「それはそうだけど。えっ、もしや、お嬢さんをくださいってやつ?それを言いに来たってこと?」

凛は慌てて手を振って否定する。

「妙さん、勝さんも。違うの。河合さんは同じ会社の方なの。それだけよ」
「でも凛ちゃんを看病してくれたんでしょ?それにこうやって挨拶にまで来てくれて」
「そうだよ。誠実そうな人じゃないか。良かったな、凛ちゃん」

そう言うと勝治は、航に深々と頭を下げる。

「どうか、凛ちゃんのことをよろしくお願いします。うちは子宝に恵まれませんでしたが、凛ちゃんを本当の娘のように思っています。こんなに健気でいい子はいません。私達は凛ちゃんに、誰よりも幸せになって欲しいんです。どうか凛ちゃんを幸せにしてあげてください」

妙も隣で深くお辞儀をしていた。

「勝さん、妙さん…」

涙ぐむ凛の横で航は頷く。

「お二人のお気持ちは肝に銘じます。どうかご安心ください」

妙と勝治は顔を上げ、ホッとしたように「良かったね、凛ちゃん」と笑いかけた。