人だかりが出来ていた筈が、サーッと左右に人が綺麗に分かれ、ようやく見えた男の人の姿。




「瑠色っ!!!」




自然と呼んでしまった黒川君の下の名前。
黒川君が机をかきわけて、思わず立ち上がった私の目の前まで来てくれたと思った次の瞬間。




グッと私の身体を力強く抱き寄せる。



抱き締められて一番最初に思ったことは、相変わらず良い匂いだなと思う。そしてやっぱり、私の好きな人だと強く強く感じた。



「迎えに来たよ。」
「…遅いよ。」
「…ごめん。」



周りがまたもや
キャーーーーーー!!と、クラス中が大騒ぎするが、お互い耳の近くで話すので小さな声でも充分聞こえる。


「もう絶対離れないから。俺…一般人になるけどそれでもいいか?」
「元々私は、芸能人の瑠色を知らなかったから…だから私にしたら何も変わらないよ。」


「だよなっ!!」


と、黒川君が私の両脇の下に手を入れて高く身体を持ち上げる。


「ちょ!怖いって!」

そう言いながらも、背の高い彼に持ち上げられて、上から見下ろす彼の顔は優しい顔で満ち溢れていた。

その顔が愛し過ぎて、私の身体全部が彼と会いたかったと言わんばかりに彼の上半身に足を巻き付け、まるで子供が抱っこされている様に抱きつく。


「…それが答えでいい?俺の初めての彼女になってくれる?」


私の耳元で話す黒川君は、その台詞の後に付け加える。


「はいかいいえで答えて。はい以外…許さないけどな。」
「それ…前に私が言おうとしたことあるやつ~。」



ギューっと彼の身体を更に強く手を回し、


「はい、お願いします!!」


と、大きな声で答えた。
またしても教室中にキャーーー!と声が響き渡った所で黒川君がとんでもない事を言い出す。



「ねぇ皆!写真!写真撮って!!これどんどん流出しちゃって!!あ、でもなるべく幸子の顔は隠して!ネットで俺の顔ガンガン晒しちゃって!」