当たり前にお酒が飲めず、かなりイライラしている様子のお父さん。

ベッド周りにカーテンをぐるりと囲んでおいて良かったのと、四人部屋に入院しているのはお父さんともう一人のお爺ちゃんだけ。

窓際に見えるお爺ちゃんのベッドにはカーテンをしておらず、イヤホンをしながらテレビを観ているが耳が悪いのか、こちらの会話に気付いていない。


「お前が救急車なんて呼ぶからこんなクソみたいな病院入れられたんだぞ!?分かってんのかよ!」

二発目の拳は久しぶりの私の頬だった。
流石に痛くて殴られた頬を無言で押さえる。


何も答えない私に諦めたのか、起きていた身体を舌打ちしながら布団に潜り込み、私に背中を向けている。


「とりあえず早くテレビカード買ってこい!」


朝も昼も、関係なくアルコールを飲んでいたお父さんは明らかに病気なのは分かっていた。
正直、数時間でも飲んでいないお父さんを見るのはいつぶりだろうか。

私も感覚が麻痺しているんだ。

これ以上機嫌を損ねさせたくないので、廊下に出て談話室に設置しているテレビカードの販売機で二枚程購入する。

何を飲みたいのか分からないが、とりあえずお茶とお水を買って、こちらを見向きもしないお父さんに、ベッド横に設置してある床頭台にカードと飲み物を置いて「また来るから。」と、声をかけたがお父さんは返事もくれなかった。

すれ違う看護師さんに頭を下げ、先ほど大量に貰った書類が入ったリュックを背負い、エレベーターのボタンを押す。



痛…。
殴られた胸元と頬がズキズキとエレベーター内で鈍痛がする。

病院だからマスクをしていたお陰で、もし顔に痣があっても周りにはバレないだろう。

ふーっとため息を長く吐く。