(俺、こんな夜中に、何やってるんだろう)
 翔太は、机に備え付けの椅子にもたれかかりながら項垂れた。

 翔太は華に付き合わされ、一緒にゲームをしていた。この有無を言わせず、人を巻き込む感じ、覚えがある。というか、昔も華はこんな感じだった。ちっとも変わっていないなと翔太は思い返した。

(何だか、胃が痛くなってきた)

 とにかく、今日は父親が夜勤で居なくて良かったと、翔太はホッと胸を撫で下ろした。こんな夜中に、女子を部屋に連れ込んでるなんてバレたら……とそこまで考えて、翔太はハッとした。

(そうだよ、仁科、女じゃんっ)

 うわっと、翔太は首元が熱くなる思いだった。華の勢いが凄すぎて失念していだが、今のこの状態、なんかヤバくない? とちらっと、翔太は華の方を見やった。

 次の瞬間、華が「あーっ」と叫んだ。

「なっ、何だよ?」
「ヤバイ、死んじゃうっ、死んじゃう! 回復、回復ー!」

 もう完全に華のペースだった。


***

(うう、背中が痛くなってきた)

 華は翔太のベッドの反りに、もたれかかってゲームをしていだが、普段家では寝転がってゲームをしていた。いつもの体勢と違うので、身体がしんどくなってきたのだ。

 華はゲーム機を持ったまま、おもむろに立ち上がった。

「翔ちゃん、ちょっとベッド使わせて」

 そのまま華は、翔太のベッドに寝転んだ。翔太は華から昔の様に、下の名前で呼ばれた事にもギョッとしたが、自分のベッドに、平気で寝転ぶ幼馴染に、度肝を抜かれて、暫く動けなかった。

(こっ、こいつ!)

 徐々に腹の底から、怒りや何かが湧き上がって、翔太は無意識に、華の腕を掴みそうになった。

 その瞬間、華がまた叫んだ。

「バッテリー、バッテリーがあっ。充電器、充電器貸して!」

 華は主導権を渡さなかった。ずっと華のターンだった。

***

(はあ、疲れた)

 翔太は、台所でコップに麦茶を注ぎながら、ボーと居間を見渡した。時計が目に入る。

(もう、四時じゃん)

 まるで、ジェットコースターに乗りっぱなしの疲労度だった。水分を補給した事で、翔太は少し頭が冴えてきた。

(俺は、一体何をやってたんだ。あいつ本当に、何なんだよっ)

 せめてダウンロードが終わったら、華を家に帰すべきだった。華は何も考えてない様だが、やっぱどう考えても、今のこの状況はおかしい。だが、そんな事を考えてももう遅い。せめて今すぐ帰らせよう。

 翔太はそう決心して、二階の自室前まで戻り、意を決してドアを開けた。華はゲーム機を掴んだまま、スースーと寝息を立てていた。

 その瞬間、何かが翔太の中で、ブチッと切れた。

 華の部屋着のショートパンツから、白い剥き出しの脚が伸びている。少し空いた胸元から、柔らかそうな胸の谷間が覗いていた。

 もう、幼いあの頃とは全然違っていた。

 翔太は寝ている華の前に歩み寄ると、そのままベッドの梁に膝を掛け、華に覆いかぶさった。

 しなやかな首筋が目に入り、華の寝息を間近で感じる――



(こんな格好で、夜中に男の部屋に来て、ベッドに寝転がって、何もされないと思うなよ)

 翔太は、窮屈そうに枕に押し付けられていた、華の眼鏡をそっと外した。成長はしたが、それは明らかに、自分の知っている幼馴染の顔だった。

 そっと自分の唇を、華の唇に近づける――

「……しょうちゃん……」

 翔太はその声に驚いて、思わず身を引いた。華が起きたのかと思ったが、そうじゃない。寝言だ。

 昔はそう呼ばれていた。いつの間にか名字で呼ばれる様になって、関係も疎遠になった。正直ホッとしていた。このまま、疎遠のままで良かったのに。

 翔太は華のその寝言に、何故だか胸を締め付けられた。

つづく