「珠子ちゃん、どうぞ。召し上がれ〜」

 テーブルに並んだそれを見て、気持ちが温まって空に昇っていく。

「珠子ちゃん、オムライス好きなんでしょ」

「うん、好き!」

 思わず素直に返してしまう。
 もちろんオムライスが、なんだけど幸夜くんは咲仁くんに「僕のこと好きだって!」と嬉しそうに報告していた。
 でも、いちいちツッコむ気も起きない。
 私はいそいそと席につく。
 私の大好きなふわとろオムライス。ケチャップがハート型なのにはモノ申したいけど、オニオングラタンスープに彩り綺麗なサラダまでついて、ここまで豪華な朝ご飯はいつぶりだろう。
 我ながらゲンキンな奴だと思うけど、正直好感度は上がった。料理男子っていいよね。
 そう、これを作ったのは幸夜くん。
 いそいそと段ボールからエプロンを取り出して朝ご飯作ってくれるっていうから何かと思えば……
 私の好物、パパから聞いたのかな。

「いただきまーす!」

 幸夜くんに好きって言われても実感わかないし困っちゃうけど、正直嬉しかった。
 一方的な好意を受けて、いつかきちんとお返事しないといけないんだろうけど、今はまだ幸夜くんのこと全然知らないし……とにかく今は、オムライスを味わおう。

「おい、俺との落差はなんだ」

 しっかり酸味の飛んだケチャップライスに、絶妙な半熟加減のたまごに舌鼓を打っていると、斜め向かいに座った咲仁くんが眉間にシワを寄せて幸夜くんを見ていた。
 咲仁くんの前にも、幸夜くんが作ったオムライスが置かれている。
 でも、たまごは焦げてて大穴が開いているし、ケチャップも適当にぶちまけただけ。スープの玉ねぎは器からはみ出しているし、乗ってるバゲットも端っこで見栄えが悪い。サラダも芯とか端っこばっかりだ。

「一番出来がいいのを珠子ちゃんにあげるに決まってるでしょ! 失敗作は、兄さんにあげる」

 悪びれる様子のない幸夜くんにため息をつきながらも、咲仁くんは「いただきます」と手を合わせた。

「僕もいただきまーす」

 自分の分を食べ始めた幸夜くんの前にあるオムライスは、私のほど綺麗じゃないけど咲仁くんのほど酷くもなかった。
 仲がいいのか悪いのか、男兄弟ってよくわかんない。