わたしはテーブルに歩み寄った。
部屋の中は、昨日の出来事が嘘だったかのように思えるほど粛然としている。
けれど、残されたものが現実感を訴えかけてくる。
「これ……」
床に落ちていたはずの鞄とリモコンがテーブルの上に載せられていた。
(隼人が?)
意外だった。
彼なら頓着せずにそのまま立ち去りそうなのに。
「こころ」
響也くんの声が響いてきて、廊下に出る。
彼は階段を下りてきたところだった。
「2階も大丈夫だったよ」
何となくそんな気がしていた。
隼人はきっとあれからすぐに出ていったのだろう。
「ありがとう、響也くん……。本当に」
危険も顧みずに確かめに回ってくれたこと。
わたしを守りたいという言葉は本気だったのだと身に染みて実感した。
「当然だよ。ほら、準備しておいで」
素直に「うん」と頷いたものの、本音を言えば前向きにはなれなかった。
隼人に会うのが怖い。
もっと言えば、会いたくない。
あんなふうにわたしの首を絞めて殺そうとしたのだ。
怖いと思うのは当たり前だろう。
それだけじゃない。
自身が偽物だと認めた以上、もう嘘をつく必要がなくなった。
これまでより大胆に、そして遠慮がなくなるはず。
いつまた昨日みたいな目に遭わされてもおかしくない。
「……行かない方がいいのかも。たぶん、隼人は諦めてないから」
つい俯いてしまうと、労るように肩を掴まれた。
「怖いのは分かるけど、こころはひとりじゃない」
目線を合わせてくれる彼を見つめる。
どうしても不安が拭いきれない。
「あいつに遭遇しても僕が守るよ。こころだって、いつまでもそうやって怯え続けるの嫌でしょ?」
「それはそうだけど……」
出来ることならもう解放されたい。
隼人の脅威から逃れたい。
響也くんがゆっくりと体勢を戻した。
「もしまだ絡んでくるようなら……正真正銘、僕がこころの恋人なんだって分からせないと────」
◇
結局、わたしは学校へ向かっていた。
響也くんの言葉を信じて懸けることにしたんだ。
ふたりで校門を通り抜ける。
校舎の方へ向かう人の波に紛れ込むべく身を縮めた。
この中のどこかに隼人がいるかもしれない。待ち構えているかもしれない。
ずっと嫌な予感が渦巻いて晴れないのだ。
「こころ、あれ……」
「!」