星野くんの言う通りにするかどうか、授業の時間中ずっと迷っていた。

 しかし“話”の内容は気になるし、わたしが彼の元へ行かなくてもどうせ逃げられないように思える。

 愛沢くんに妨害されたり敵意をぶつけられたりすることも、もう(いと)わないつもりなのだろう。

 そうなると結局、選択肢はひとつだけ。
 わたしは休み時間になるとすぐさま教室を出た。



 C組の教室を覗くと、目が合った彼は人差し指で“上”を示す。
 屋上を指しているのだろう。

 一緒にいるところを愛沢くんに見られると厄介なことになるから別々に向かおう、ということだ。
 可能な限り、面倒ごとは避けておきたいみたい。

 こく、と頷いて再び廊下を歩き出した。

 誰もいない屋上で待っていると、ほどなくして星野くんが現れる。

「……ねぇ、僕のこと信用出来ない?」

 その表情はもの()げながら、わたしを責めるような気配は感じられない。

「正直……」

 そう素直に認め、俯く。
 信じたい気持ちはあっても、状況がそうさせてくれない。

 彼は何も言わないまま歩んできた。
 わたしの横を通り過ぎ、縁の方に立つ。

「じゃあこのまま話そう。何だったらこれで縛ってくれていいよ、手首とか」

 ネクタイに触れながら言われ、慌てて首を左右に振る。

「そこまでは出来ないよ!」

 こうして距離をとってくれただけでも充分な配慮だ。

 やっぱり星野くんはわたしのことを考えて、よく理解してくれている。

(怒ってもいない、のかな)

 昨日のことを(とが)められるかと思ったけれど、そんな雰囲気は一切ない。

「……それで、話って?」

 そう促すと、星野くんの顔つきが変わった。
 意思の強い真剣な眼差しを向けられる。

「何度でも言うけど、僕はこころに幸せでいて欲しいだけ。こころを守りたいんだ」

 その言葉なら確かに何度か聞いた。
 感情は揺れても、信用にまでは至らない。

 心苦しく思っていると、彼はさらに続けた。

「そのために……余計なこと考えるのやめる。僕も手段なんて選んでられないから」

 一度伏せていた視線を上げ、再びわたしに注ぐ。

「もう遠慮したり譲ったり出来ない。そんな余裕ない。……それでもいい? 」

 困惑してしまい、眉を寄せた。
 どういう意味なのだろう?

「わ、分かるように言って」

「僕がこころのそばにいる。あいつじゃなくて、これからは僕と一緒にいて」