「その“誰か”って、もしかして星野くん?」
どきりと心臓が跳ねると、顔が熱くなった。
動揺を隠せないわたしの染まった頬を見て彼女ははしゃぐ。
「やっぱり! 最近よく一緒にいるし幸せそうだもんね。ねぇ、もっと詳しく聞かせてよ。お昼一緒に食べよ、こころ」
ふいに名前を呼ばれて驚いてしまった。
けれど、何だか嬉しくて、くすぐったくなって顔が綻ぶ。
「うん、小鳥ちゃん」
ふたり分の影が伸びる穏やかな帰り道、心が満たされるのを感じながら歩いていた。
ただ隣にいるだけで幸せだなんて魔法みたい。
「何か嬉しそうだね。いいことでもあった?」
「え、うん。……それもあるけど、いまこうして響也くんといられることが嬉しくて」
何となく正直に答えてしまって、一気に照れくさくなる。
恥ずかしげもなく何を言っているんだろう。
ひとりで慌てていると、くす、と彼が小さく笑った。
「素直だね、こころ。そういうところもかわいくて好きだよ」
響也くんも大概だけれど、何度甘い言葉をささやかれても一向に耐性のつかないわたしもわたしだ。
熱くなった頬を両手で包み込む。
涼しい顔をして微笑んでいるけれど、彼はそんなわたしの反応さえ楽しんでいるみたいだった。
落ち着けるように息をつくと、そっと口を開く。
「……あのね。わたし、後悔してないよ。あの夜のこと」
思わぬ言葉だったのか、彼の瞳が揺れる。
「だから響也くんも自分を責めないでね。そもそもわたしが頼んだことだったんだし」
何度も何度も“ごめん”と口にして、後悔を滲ませていた姿を思い返す。
わたしが無理を言ったのに、そのことで響也くんが心を痛めるのは、囚われ続けるのはたまらなかった。
「それに、自分の気持ちを確かめられたのはわたしも同じ。忘れてもやっぱり響也くんのこと好きになった」
「じゃあ────」
ふと、彼が踏み出す。
「もう忘れないでね、僕のこと。僕の心からいなくならないで」
切実な表情が突き刺さった。
『こころには、いまの僕をまた好きになってもらおうと思って』
あのとき彼がどんな気持ちでそう口にしたのか、想像すると胸が締めつけられる。
「忘れないよ。忘れられるわけない。これからもずっと、隣にいてくれるんでしょ?」
そう尋ねると、響也くんはふわりと微笑んだ。
柔らかくてあたたかくて、ほっとする笑顔。
「もちろん。ずっと、僕だけのこころでいてね」
繋いだ手の甲に優しいキスが落ちてきた。
いっそう想いが募っては満たされていく。
────きっと、これがいつか夢みていた真実の愛。
劇的な瞬間を駆け抜けて、わたしはわたしだけの“運命”を見つけた。
【完】



