嘘に恋するシンデレラ


「ありがとう……。わたし、星野くんのお陰で変われた。大事なものに気づけた」

 何度伝えても足りない言葉を心から告げた。
 小さく笑った彼がしっかりと抱き締め返してくれながら「僕も」と言う。

「色々大変なことになったけど、だからこそ改めて思った。これからも、こころのそばにいたい」

 声色が真剣味を帯びたかと思うと、そっと離れて()しむように微笑みかけられる。

「好きだよ、こころ」

 ようやく真正面からその想いに向き合えたような気がした。
 受け止めることにも受け入れることにも、何の遠慮もいらないんだ。

「わたしも。わたしも、星野くんが好き」

 加速する鼓動は不思議と心地よく、甘く痺れていた。

 頬に手を添えられて目を閉じる。
 影が重なったとき、鐘が鳴って晴れた朝の空に響いた。



     ◇



 ある朝、教室へ入ると机の上に花瓶が置かれていた。
 その意味に気づいたとき、つい圧倒されて足が止まる。

 教室の後方を見やると、輪を作る女の子たちがくすくすと笑い合っていた。
 意地悪そうに眉をひそめたり唇を吊り上げたりして、わたしを指しては何かをささやき合う。

 ここのところはずっと、隼人が入り浸っていたお陰で彼女たちも一時的に大人しくなっていたけれど、彼の影がなくなったから積極的に転じたのだろう。
 また嫌がらせをされる日々が待っている。

「まったく……」

 呆れたように立ち上がった丹羽さんが歩み寄ってきて、そっと背中に手を添えてくれる。

「大丈夫? こんなの気にしないでね」

 花瓶を手に、廊下へ出ていこうとした彼女を気づけば呼び止めていた。

「待って」

 その手から花瓶を受け取ると、そのまま教室の後方へ向かう。
 輪になった女の子たちが囲む机の上に勢いよく置いた。

 しん、と水を打ったように静まり返って嘲笑が止む。

「負けないから、わたし」

 意外そうに目を見張っていた彼女たちが、ますます衝撃を受けたように固まる。
 唖然と言葉を失っているようだった。

 息が詰まることも声が震えることもなかった。
 響也くんのくれた優しさが、立ち向かう勇気をくれたから。

 毅然(きぜん)と背を向けて席に戻ると、同じく驚いた様子だった丹羽さんが笑いかけてくれる。

「……何か、変わったね。強くなったみたい」

「そうかな?」

 何だか照れくさくて、はにかみつつ続けた。

「ただね、思ったの。信じてくれる誰かがいるだけで自信になる。その人のためにも、わたしがわたしを諦めちゃいけないって」

 何があっても終始一貫してわたしを信じ、守り続けてくれていた響也くん。
 その想いに応えるためにも、自分自身を大切にするべきだ。