頭を殴った犯人に、その行動に、正当性や合理的な理由なんてない。
わたしに対して悪意があるとしか思えない。
愛沢くんが言っていた通り、星野くんがあんなものをいつまでも部屋に置いておくというのも不自然だ。
そこにわたしを招き入れる、というのも。
(もしかして……)
本当は、わたしが星野くんを怪しむよう、愛沢くんが誘導しているのではないだろうか?
しかし、星野くんの家に金属バットが置いてあったこと自体は確かな事実。
どうしてなんだろう?
「!」
そのとき、ポケットに入れていたスマホが震えた。
取り出してみるとメッセージアプリの通知だった。
表示されているのは星野くんの名前。
(何で……)
『俺以外の男と連絡取んな』
確かに以前、彼のアカウントは愛沢くんに消されたはずだ。
訝しみながらアプリを開く。
(あれ?)
逆に愛沢くんからのメッセージは1件も届いていなかった。
今朝、あんなに憤っていたのに。
そう思いながら登録されているアカウントの一覧を確かめると、愛沢くんの名前が消えていた。
(どういうこと……?)
まさか星野くんの仕業なのだろうか。
昨日、わたしが気を失った隙に?
どく、どく、とナーバスな拍動を繰り返す心臓の音を聞きながら、彼とのトーク画面を開く。
【次の休み時間、僕のところに来て】
「…………」
分からなかった。星野くんの思惑が。
何を考えているのか、何を望んでいるのか。
昨日、彼を拒絶するように黙って逃げたわたしをどう思っているだろう。
怒っていないのだろうか。
【どうして?】
躊躇いながらそう返した。
正直なところ、前向きにはなれない。
間を置くことなく彼から返信が来た。
【話がある】
眉根に力が込もる。
意図を推し量るように慎重に文字を追った。
【僕から逃げないで】