いずれにしても、わたしは今まずい状況に追い込まれていた。
 感傷的になっている場合じゃない。

『終わらせてあげるよ、いつでも』

 星野くんの狂気的な一面を思い出し、爆風のような危機感がわたしの不安を(あお)る。

 今この瞬間も、愛情と紙一重の殺意を向けられているかもしれないのだ。

(このままじゃ殺される……?)

 しかし彼の言う通りならば助けは期待出来ない。

 どうすればいいのだろう。
 早くここから逃げ出さないと────。

「……僕が怖い?」

 不意にそんなことを尋ねられ、正直に反応してしまった。
 彼を見返す瞳が揺れたのを自覚する。

 それだけで充分、答えになったはずだ。

「……心配しなくても大丈夫だよ。何度でも言うけど、僕はきみの味方だから」

 本当にそうなのだろうか。
 星野くんは敵じゃない?

「危険なのはあいつの方。自己中心的で機嫌によって態度が変わる……こころも思い知ったはずだよ」

「それは……」

 確かにそうかもしれない。
 何度も怖い思いをした。

「きみはあいつの機嫌次第で暴力を振るわれてた。身体に痣が残ってたんじゃない?」

「!」

 どくん、と心臓が跳ねる。

 今は既に()えているけれど、当初は星野くんの言う通り不自然な痣があった。
 外からは見えないような位置にばかり。

(なのにそれを知ってるってことは……)

 彼には本当に、そのことを相談していたのかもしれない。

「ねぇ、僕を信じてくれる?」

 星野くんの眼差しは(すが)るようだった。

 まっすぐで懸命。
 だけど(しん)に迫っているからこそ逆にわたしを惑わせる。

「……ごめん、それだけじゃ信じきれない」

「どうして」

「だって、響也くんが元彼(にせもの)の立場でも同じことが言える」

 わたしに暴力を振るっていたという“元彼”。

 身体に痣があったことも、自分でつけたなら知っていて当然なのだ。

 それを口に出来たからって何の証拠にもならない。信じる材料には出来ない。