突然のことに驚いて声も出せないまま、息をのむとびくりと肩が跳ねる。
 振り返ると見慣れない女の子が立っていた。

「びっくりした?」

「もー、やめなよ」

 いたずらっぽく笑う彼女を、小鳥ちゃんがたしなめる。

(誰だろう?)

 この子もわたしの友だちなのだろうか。

 そんなことを考えているうちに、彼女は近くの空席から椅子を引いてきて座った。

「で、どうなの? ()、今度こそ運命の王子様だった?」

「……?」

 いったい何の話だろう。

 意味がよく分からずにきょとんとしてしまうと、またしても小鳥ちゃんが「ちょっと」と制する。

「なに、小鳥?」

「こころは今、記憶喪失なの。変なこと聞かないで」

 わたしや小鳥ちゃんの友だちではあるみたいだけれど、クラスが違うから諸々(もろもろ)の事情を知らなかったみたいだ。

 彼女もかなり驚いたようではあったが、すぐに事実として受け止めてくれる。
 わたしの状態を見れば(おの)ずとそうなると思う。

「……そんなことって本当にあるんだ。大丈夫なの?」

「あ、うん。何とか」

 咄嗟に笑って頷いた。
 そう答えるしかなかった。

「あの、それより────」

 わたしは半ば身を乗り出しながら、じっと彼女を見つめる。

「さっき言ってた“運命の王子様”って何?」

 “彼”とは誰を指すのだろう。

 重要なヒントに思えてならない。
 星野くんや愛沢くんの存在と関係があるような気がする。

「え? あー、えっと」

 やや気圧(けお)されつつも彼女は答えた。

「こころが前に言ってたんだよね。“運命の王子様を探してる”って。それで愛されるお姫様になりたいんだって」

 今度は何だかわたしが圧倒されてしまう。

 どうやら以前のわたしは、運命の恋に憧れていたみたい。
 夢見がちなロマンチストだったようだ。

 それを否定するつもりはないけれど、今のわたしからするとやっぱりどこか他人事のように思えて、自分のことだという実感が湧かない。

「でさ、新しく付き合い始めた人がいるって言ってたから、どうなったのかなと思って」

「……それって、誰のこと?」

 どこか緊張してしまいながら食い下がり、核心に迫る問いかけをした。

 もしかしたら、ここで知れるかもしれない。
 頭の奥底へ沈んでいった真実を。