ほとんど声にならない呟きが(くう)に吸い込まれる。
 掠れて震えた。

 どく、どく、と強く打つ鼓動が、わたしから熱を奪っていく。

 冷静になってきた。
 頭を働かせ、昨晩考えついた疑問の答えを導き出す。

 病室で目覚めた時点で響也くんのアカウントが追加されていたということは、彼が操作出来るタイミングは、わたしが隼人の家を出て以降だ。

「そもそも、この写真……いつの? 」

 響也くんを見やって尋ねる。
 ふらりと目を逸らした彼の代わりに、答えたのは隼人だった。

「それさ、前に俺がこころと別れてすぐの頃のやつじゃねぇの?」

 形勢逆転だと言わんばかりに、響也くんに歩み寄った彼はせせら笑う。

「まさかお前もこころにつきまとってたとか?」

 確かに隼人はつきまとっていたことを事前に認めている。
 これはわたしと別れた彼が、ストーカーをしていた頃の写真だ。

「…………」

 何も答えない響也くんを見て愕然(がくぜん)とする。

 あのタイミングで、この瞬間だけを切り取った写真を見せられたせいで、すっかり騙されていた。

「響也くん……」

 わたしはそれでも(すが)るように彼を見つめてしまう。
 あの優しさが、想いが、愛が、まやかしだったなんて思いたくない。信じたくない。

「ねぇ、何か言って────」

「あーあ、バレちゃった」

 くすりと笑った彼は、わたしの手からスマホを取り返した。
 冷めた表情で写真を眺め「惜しかったなぁ」と呟く。

「え?」

 スマホをポケットにしまうと、あのとろけるほど甘い笑顔をたたえてわたしに向き直った。

「最初にきみをバットで殴ったのも、突き落としたのも僕だよ。もちろん、この間のも僕がやった」

 怯みもせず、悪びれもせず、恍惚(こうこつ)とした様子であっさりと白状する。
 完全に開き直った態度だった。

 自分の一部が冷静に分析する。

 こんな嘘をつく必要なんてない。
 彼は事実を口にしている────。

 でも、だからこそ、残りの大部分が“信じられない”と叫んでいた。

 目の前の現実を、追い求めていた真相を、拒絶したくなる。

「どうして……?」

 喉に詰まりかけた声をどうにか押し出した。

 この()に及んで、わたしのためだなどという曖昧(あいまい)な答えはないだろう。

 どういう意味でわたしのためになるのか、それも今なら教えてくれるかもしれない。