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 放課後、隼人の動向を確認してから学校を出た。

 つけられていないか細心(さいしん)の注意を払いながら、あの公園へと向かう。

 約束なんて取りつけなくても、響也くんならそこで待ってくれているだろうと思った。

 果たしてその想像通り、一足先に学校を出ていた彼はそこにいた。
 わたしに気付くとベンチから腰を上げる。

「こころ」

 どこまでも優しくて甘い声色と表情。
 何もかもを放り出して、無心でそれを信じられたら楽なんだろうな。

(でも……)

 ここまで来て、そんな選択肢はない。
 隼人からあんな話を聞かされた以上、尚さら難しくなった。

 迷いと疑心(ぎしん)が邪魔をする。
 いや、実際には真相へ近づく踏み台になってくれているのかもしれないけれど。

 隼人の話が事実なら、わたしの怪我や記憶喪失は事故みたいなもの。
 しかし、それならそれでそうと言うべきだ。

 響也くんも分かっていたはず。
 だけど、そうはしないで過去の一切をそれこそ“切り捨てる”選択をした。

 思い出して欲しくなかったのはそのせい。
 リセットしてしまおうとした。

(もし、本当に事実なんだとしたら……)

 わたしが記憶をなくしたのをいいことに、真実までなかったことにしようとしたのなら────響也くんは味方とは言えない。

 本当の意味でわたしのことを想ってくれているとは言えない。

 真相を隠すために今まで口を噤んできたなら。

 最初から、自分のためだけにわたしを騙そうとしていた、ということなのだ。

「響也くん」

 わたしは硬い声で呼びかける。
 普段と変わらない様子で小さく首を傾げる彼。

 緊張していた。
 視界を覆っていた霧が少しずつ晴れて、ようやく見え始めた真実に手を伸ばしている感覚。

 ずっと知りたかったことが、あるいは知りたくないことを、これから目の当たりにするかもしれない。

「本当のこと教えて。あの夜、何があったのか」

 わたしはそれでも逃げたくない。
 あとには引けない。

 踏み出した一歩はもう、もとには戻せない。
 引かれた一線を越えてしまったから。

 凜然(りんぜん)とその双眸(そうぼう)を見上げる。

「響也くんの言葉で、ちゃんと話して」