プライドと自尊心が高い隼人は、わたしを自分の“所有物”だと思って、何でも思い通りに出来ると信じていたから。

 別れを切り出されたことが許せなかった。逆上(ぎゃくじょう)した。
 馬鹿にされた、とさえ思ったのかもしれない。

 その出来事、わたしとの関係を“汚点”と思って、なかったことにしようとした?

(ああ、そっか)

 復縁した上で手にかけることで、仕返しのつもりだったのかもしれない。

(何となく見えてきた気がする)

 ここまでのこと、すべてが隼人の掌の上だったとしたら────。



 個室を出て女子トイレを後にすると、脇目(わきめ)も振らずにC組の方へ向かった。

 その途中、廊下で目当ての姿を見つける。響也くん。
 彼も彼できょろきょろと何かを、いやわたしを捜している様子だ。

(……ちょうどいい)

 隼人に見つかる前に少し話したい。
 彼に駆け寄ると、その腕を掴んで引いた。

「来て」



     ◇



 人気(ひとけ)のない裏庭で足を止める。
 振り返るなり、ばっと頭を下げた。

「今まで疑ってごめん!」

「え……」

 突然の行動に困惑するような声が降ってくる。
 おずおずと顔を上げ、視線を落としたまま口を開く。

「色々考えたの、あの写真のこととかも含めて。それで……ここまでのことぜんぶ、隼人の計画だったのかなって思って」

 声のトーンがだんだんと(しぼ)んでいく。
 正直、自信なんてなかった。

 これまで何度も同じことの繰り返しで、響也くんのことも隼人のことも、信じては裏切られてきたような感じで。

 そんなふうに失敗してきたから、もしかしたらこの行動や選択も早まった考えかもしれない。

 けれど、この推測はそれなりに的を射ていると思う。

 最初から隼人の思惑通りに事態が動いていたのだとしたら。
 彼による復讐計画だったのだとしたら。

 わたしは顔を上げ、響也くんの双眸(そうぼう)をまっすぐに見つめる。

「都合がいいのは分かってる。でも、お願いがある」

「……なに?」

「協力、してくれないかな」

 ちゃんと隼人と別れられるように。
 彼に殺されないように。

 彼の脅威を退(しりぞ)けるには、響也くんの手を取ってその力を借りるしかないような気がする。

 わたしの推測が正しいとするなら、響也くんは味方。
 信じるべき相手だ。

「…………」

 彼は何かを推し量るようにわたしを見返していた。
 しばらくの間、お互いの眼差しが静かに交わる。