そもそも“学校に行かない”という選択肢がないわけでもなかった。
 でも、家も病室も学校も彼らに割れているし、それがいいとは思えなくて。

 そういう意味では安全地帯がなかった。
 だからとりあえず今は、ふたりの来られないところへ逃げる。

 わたしは女子トイレに駆け込み、個室に入って鍵をかけた。
 扉に背中を預け、胸の前で両手を握る。

 心臓が強く速く打っていた。
 走ったせいだけじゃない。

(……今のうちに情報を整理しよう)

 ふ、と一度息をつく。

 わたしの本来の恋人は響也くんで、元彼は隼人。

 隼人からの暴力に悩んで一度別れ、そのあと響也くんと付き合った。

 しかし隼人につきまとわれるようになった。
 彼が言うには、響也くんは危険人物で、隼人はずっとわたしを守るために動いていた。

 屋上での一件以降、わたしは響也くんと事実上別れ、助けてくれた隼人と復縁した────。

(だけど……)

 響也くんは隼人がわたしをつけ狙っていたことを示す証拠写真を持っていた。

 それによって、昨日わたしを突き落としたのが隼人である可能性が有力になった。

(何でなんだろう)

 彼がそんなことをしたのは。
 本当にわたしを殺そうとしたのだろうか。

 結局、彼らの目的は何なのだろう?

 特に隼人……彼はあれほどわたしを好きだと言ってくれて、彼の望み通り再び付き合うことになった。

 それなのに、なぜ殺す必要があるのだろう?

 ────そもそも最初にわたしが頭を怪我して階段から落ち、記憶を失ったとき。

 それも結局うやむやになっていたけれど、こうなった以上、響也くんではなく隼人の仕業だったのではないかと考えてしまう。

(そのときは何がしたくてそんな行動に出たのかな……?)

 たとえば響也くんの言っていたように、彼になすりつけて悪者に仕立て上げ、わたしを助けることで復縁にこぎつけたかった?

 もしそうなら、確かに成功している。
 まんまと隼人の思惑通り。

 わたしは響也くんを信じられなくなったし、助けに来てくれた隼人には恩と好意を感じて。
 だから復縁を決めた。

(でも、昨日……)

 再び突き落とされた。

 隼人の目的は復縁じゃなかった、ということ?

(じゃあやっぱり……相当恨んでるんだ、本当はわたしのこと)