響也くんと別れ、ひとりで病室に戻る。
 力なくベッドに歩み寄り、すとんと腰を下ろした。

『でも、こころの言い分はまったく反対のことも言えるよね? すべてはあいつが僕を落として、自分を信用させるためにしたこと』

 確かにその言い分には一理ある。

 隼人ほど執念深い人物なら、そこまでのことをやってのけても驚かない。
 たとえばバットという物的証拠を仕込んだりとか。

 響也くんと決別して隼人を信じる決定()となった屋上での出来事も、実際、隼人がそう仕向けたと自分で言っていたわけだし。

(何よりあんな写真を見せられたんじゃ────)

 昨日わたしを突き落としたのは隼人だったのだ、と結論づけるに足る。

 だけど、イコール響也くんを全面的に信じるということではない。
 そのことは念頭(ねんとう)に置いておかないと。

 そうやって何度も信じては裏切られて……を繰り返してきた。
 ふたりに振り回されてきた。

 どちらかに傾倒(けいとう)するのは賢明(けんめい)ではない。
 ちゃんと自分で考えて、ひとりで戦うべき。

「いっそのこと、また記憶なくしたことにした方がよかったかも……」

 それで彼らの主張や態度が以前と変わったら迷わず疑える。

(そうしよう、かな?)

 響也くんには正直に記憶をなくしてないことを言ってしまったけれど、隼人にはそのふりをしてみようか?

 あんな写真もあるし、現状、隼人のことはもう信じられないから。

「…………」

 わたしは決意を固めるように小さく数度頷いた。

 どちらの仕業なのかちゃんと突き止めたい。
 殺意があったのかどうか、も。



     ◇



 一夜明け、退院したわたしは午前の間に帰宅した。

 あえて授業中の時間帯に登校し、チャイムが鳴る寸前に教室へ入る。
 こうすればふたりに捕まることもない、と思ってのことだった。

 席につくなり小鳥ちゃんが振り向いた。

「ねぇ、大丈夫なの? また傷が増えてる……」

 声を落とし、眉を下げる。
 心配と不信感を織り交ぜたような調子だった。

「あ、うん。大丈夫だよ」

「もしかして、また愛沢くんに────」

 小鳥ちゃんが今見えているのは、あくまで転落時の傷だけ。
 出てきたその名前にどきりとしたけれど、それはわたしも同じことを考えていた。
 
 だけど何か言う前にチャイムが鳴る。
 起立、と号令がかけられた。

「ごめん、わたし行かなきゃ」

「え? ちょっと、こころ!」

 休み時間に入った瞬間、教室を飛び出した。
 小鳥ちゃんの声を背中に受けながら先を急ぐ。