誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー

「さあ、踊ろう」


優しい王子の声の後、すぐに、父親と婚約者の声が響いた。


「おい、その娘はなんだ」

「彼女は、私の愛する人です。」


王子は真っ直ぐに父親に向かうが、父親は顔を顰め、聞く耳を持ってくれない。


「口を慎みなさい。婚約者が目の前に居るんだ」

「私は、構いませんよ。可愛らしいお嬢さんですね」


余裕のある口ぶりで微笑みを見せる婚約者に、私は上手く笑えず、一歩後ろへ下がった。


「王子よ、このパーティーで婚約を発表する。今すぐその娘を追い出しなさい。」

「父上、私は…!」

「冷静になりなさい。お前は国の王子だ。その娘を守りたければ、今取るべき行動は分かるだろう」


言い返せず、黙り込んだ王子を合図に、舞台は暗転し、私と皇輝だけにライトが当たった。


「…姫、すまない。俺はお前を、守れない」


本当に苦しそうに、悔しそうに、王子様は言った。

その表情に胸が締め付けられ、それと同時に、初めて、素直に受け入れようという気持ちが芽生えた。


ずっと、来ると分かっていたこの悲しい結末を受け入れたくなくて。

それでも迫ってくる現実に、悲しい気持ちばかり募らせていた。


だけど、こんな顔をする王子様に、迷惑はかけられない。

今日まで幸せにしてくれた。

言葉通り大切に守ってくれていた。


それだけで私は幸せだった。


そんな思いが次々と湧き出してきて、私は悲しみを隠すように、ぐっと涙をこらえ笑みを見せた。


「…ええ、ありがとう。いい夢だった。」


これは、紛れもなく私自身の本心だった。

そして、物語のお姫様の気持ちを初めて知れた時間だった。


あぁ…やっぱり、私が幼い頃から感じていた感覚は間違ってなかった。

このお話は、バッドエンドなんかじゃない。


お姫様は、こんな気持ちになれてたんだ。


悲しい現実が突き付けられた。

このあときっと、沢山泣くことになるだろう。

それでも尚、幸せだと思えたことが、私は、本当に嬉しかった。