若者就職支援センターから帰宅すると、大好きなカレーの匂いに包まれた。
「ただいま」
「おかえり。何処行ってたの?」
「母さんに話があって。あー…どうせなら父さんも帰ってきてからがいいかな」
「そう?じゃあ先にお風呂入ってしまいなさい」
 促されるまま、私はぬるめの湯に浸かりながら、両親にどう切り出そうか考えた。大学進学をやめると言えば、両親はどう反応するだろう?
 しかし、二浪してまで大学生になりたくないという気持ちは変わらず、早く社会人になったほうがいいという気がしている。
「俺、応援してるから」
 別れ際の、ジョーの言葉が甦る。もう、これ以上自堕落な生活を続けたくはない。髪を乾かし、リビングに戻ると、もう父は帰宅していた。
 最近、あまり両親と一緒に食事することもなくなったので、何となく不思議そうにされた。
「ねえ…話があるの」
 思い切って切り出した。
「どうした?」
 父に尋ねられ、
「私、今日は若者就職支援センターに行ってきたんだけど」
「就職?」
「ごめん…私、大学進学しないで就職するから、予備校もやめる。途中から黙って通わなくなったりして、本当にごめんなさい」
 そう言うと、
「就職といっても、あてはあるのか?」
 私は、若者就職支援センターで聞いた話を伝え、ダメ元でも思い切ってやってみたい気持ちを伝えた。
「給付金を受けながら学校に通うことなんてできるのね」
 母は少し驚いた様子だった。
「あんまり積極的な志望動機じゃないけど、人相手の仕事に抵抗があって、パソコンも好きではない私には、丁度いいんじゃないかなって…」
 少しの沈黙の後、
「ちゃんと、自分で立ち直ってくれたんだな」
 父の言葉に顔を上げると、優しい目をしていた。
「よかったわ…このままどうなってしまうか、心配で仕方なかったから」
 母の瞳は潤んでいる。それほどまで、私は両親に心配させていていたかと思うと、胸が痛む。
「向いてるかどうかわからないけど、頑張ってみるから…」
 もう、親を失望させたくない。そして、何より私自身が、これ以上ダメ女のままでは居たくないのだ。
 別に、何か大きなことを始めようというわけではない。大学進学をキッパリやめて、これまで考えもしなかった工業系の仕事にチャレンジしようと決めただけ。それだけといえば、それだけのこと。
 しかし、どんなに小さな一歩だとしても、何もしようとしないより遥かにいいだろう。