あの満月の夜、久しぶりにジョーと落ち着いて話をしてから、私なりに、いろいろ考えた。
 考えた結果、いくつか見えてきたことがある。私は昔から、チームプレーというのがどうも苦手だった。吹奏楽部や合唱部はチームプレーになるが、それもよく考えたら、運動部に入りたくなかったから…という消去法だった。故に、高校では帰宅部。
 どんな職種…となるとよくわからないものの、何が嫌かとなると、まず営業は絶対に嫌、接客も気が進まない、なるべく一人で黙々とやれる仕事がいい。しかし、それって何だろう?
 部屋で一人で考えていても仕方ないので、重い腰を上げて、若者就職支援センターに行ってみることにした。大学は…もういい。二浪して、ふたつ年下の子たちと同級生に…というのが、どうも気が進まないのが本音なのだが。
 こんなに消極的な思考でいいのかという気もするが、これまでの私にはなかった考え方だ。高望みした結果がこの体たらくなのだから、やりたいことより、自分に出来そうなことの中から取捨選択していくというのも、アリなのかもしれない。
 地方に住んでいながら、私はまだ運転免許を持っていない。まずは免許を取ることも必要かも…と思いつつ、自転車で若者就職支援センターへと向かった。
 センターに着くと、中年女性がにこやかに迎えてくれた。渡された書類に書き込んで渡すと、カウンターに通される。
「浪人生ということだけど、受験はどうする予定ですか?」
 そう尋ねられ、
「一応、浪人生と書きましたけど…もう大学はいいと思ってます。でも、やっぱり大学出てないと就職出来ませんか?」
「そんなことはありませんよ。確かに、大学を出ていないと就けない職種もありますけど、学歴関係なく取得できる国家試験もありますし、高卒の公務員だって沢山いますから」
「あの…私、いわゆるOLというよりは、一人で黙々と働きたいって思ってるんですけど、どういった職種があるんでしょう?パソコンも苦手だし、CAD必須とか書いてあるともう嫌!ってなってしまって…」
「パソコンを殆ど使わない仕事もありますよ。ものづくりは好きですか?」
「ものづくり…不器用なりに好きです」
「じゃあ、溶接の仕事なんてどうですか?」
「溶接?」
 全く考えたことのなかった選択肢だ。
「まだ少ないものの、女性も活躍し始めてますし、職業訓練校では溶接工を目指すコースもありますよ」
「職業訓練校ですか。学費が高いんじゃ…?」
「一部実費はありますけど、無料です。本気で就職を目指す人で、条件も満たせば、給付金を受けながら通えますよ」
「えっ、学校に通うのに給付金!?」
「ただし、1日でも欠席したら対象外になります」
 1日でもアウトか…。しかし、受講料無料なだけでなく、給付金を受けながら学校に通えるとなれば、それぐらいタイトでも当然だろう。とりあえず、パンフレットをもらうと、私は家路を辿った。
「香澄!」
 信号待ちをしていたら、ジョーに声をかけられた。
「ずっと引きこもりがちだったのに、今日は出掛けてたんだな」
「うん。ちょっと若者就職支援センターまでね」
 そう答えると、ジョーの表情が明るくなり、
「ついに動き出すことにしたんだ?」
「まぁ…でも、すすめられた仕事がピンと来なくて」
「何の仕事?」
「溶接。職業訓練校もあるからって」
「そっか。香澄としてはどうなんだ?嫌?」
 なんだか、ジョーは前のめり気味に聞いてくる。
「いいとか嫌以前に、工業系の仕事は考えたことなかったというか…」
「じゃあ、これを機に考えてみたらいいんじゃないか?」
 そう言われると、確かにそれもそうだ。予備校にしたって、実はまだやめたわけではなく、単に私が通わなくなっただけなので、やめるならやめると親に伝えなければ。
「そうね。そうしてみる。じゃあね」
 わかれ道に辿り着いた時、そう言って自転車に再び跨ったが、
「なぁ、香澄」
「何?」
「俺、応援してるから」
 真剣な眼差しで言われ、
「うん…」
 そう答えると、ジョーに背を向けて自転車を走らせた。