酷い頭痛で目覚め、時計を見遣ると既に昼過ぎだった。
 最近、何故かやたら苛立つので、昨夜は山ほどビールや酎ハイを買い込んで、昔のシチュエーションコメディを見ながら、酔っ払ってゲラゲラ笑って、気絶するように眠っていたようだ。
 階段を降りてキッチンへ向かい、ボトルのままのミネラルウォーターを飲む。
「おはよう…」
 自分の娘相手なのに、遠慮がちに母が言い、私もおはようとだけ返し、すぐ部屋に戻る。
 やはり、母は私が明らかに二日酔いであろうと叱ったりはしない。叱られたら叱られたでまた苛立つくせに、何も言われないことに淋しさを感じているのだから、矛盾にもほどがある。
 再びベッドに横たわると、何だかもう人生をどうしていいのかわからなくて、胸が苦しくなってきた。
 正月らしいことは何もしないまま年が明けてしまい、来月には19歳になる。いつまでも甘ったれの子供では居られないことぐらい判っているが、お先真っ暗で明るい未来なんて見えない。
 別に、選択肢が何もないわけではないのに。
 死にもの狂いで勉強し、二浪して志望校を目指すとか、うんとレベルを落として今からでも入れそうな大学で妥協するとか、いっそ進学を諦めてフリーターになったとしても、ニートよりはまだマシだとか。
 こんな筈じゃなかった…。高校時代、滑り止めの大学はA判定だったこともあり、どこかしら必ず受かると信じていたのに。
 誰がどう見ても自堕落なダメ女でしかない私だが、これでも意外と根は真面目なので、学生のチャチャラしたノリが苦手である。
 ゆえに、高校時代は高望みしてでも落ち着いた真面目な雰囲気の大学に入りたいと思っていた。
 しかし、その結果がこの体たらくだ。もう何もかもイヤにもなる。
 苦しくて、横たわったまま瞳を閉じていたら、電話がけたたましく鳴った。
 とても、誰かと話す気分でもないので無視しようと思ったのに、延々と鳴り止まない。
「あーうるさい…」
 思わず独り言を呟いてから、
「もしもし!?」
 苛立ちを隠しもせずに電話に出た。
「香澄、俺だけど」
 その声で誰なのかはすぐにわかったが、
「オレオレ詐欺ですか。通報させてもらいます」
 わざとそう言って切った。
 ジョーからの電話だ。電話してきてまで説教したいとは、ジョーは友達が居ないのか?そう思っていた矢先、再びしつこく電話が鳴る。
「しつこいわね!何なのよ!?」
 いきなりそう怒鳴りつけたところ、
「もっと普通に話せないか…?」
 ジョーに落ち込んだような暗い声で言われ、胸の奥がチクリとして、声のトーンを落とす。
「悪いけど…気が滅入ってるし、二日酔いで説教を聞くような気分じゃないの」
 口が滑って二日酔いだと言ってしまったが、ジョーはそこには突っ込まなかった。
「今日、少し会えないかな?」
 ジョーも落ち着いたトーンで尋ねる。どう答えようか迷ったが、
「車で迎えに来てくれるならね」
 偉そうに答えた。
「わかった」
 そう言って電話が切れた。
 私は、重い溜息をつくと、簡単に出かける支度を始めた。相手はジョーなので、別におめかしする必要もない。