「溶接工“なんか”って言い方があるか?じゃあ逆に、あんたは何様なのか聞きたいね。さぞ優秀な大学の学生さんで、成績もオールAってとこか?」
「な、なによ…。あら?あなた、随分チープな服着てるのね。ブランド物のひとつも持ってないなんて、貧乏学生なのかしらぁ?」
 さっきは、ジョーに猫なで声を出していたあゆみだが、今度は急に小馬鹿にし始めたので、私は思わずカッとなって、
「あんた、よくも…」
 言いかけたところを、ジョーが遮るように、
「そうですよ。貧乏学生ですが、何か?だけどな…俺みたいな貧乏学生が、噂のボンボンから香澄のことを奪ったんだ。俺の彼女にケチつける奴は、女だって手加減しねえぞ!」
 柄にもなく、ジョーは乱暴な口調で怒鳴りつけた上に、指をバキバキいわせ始めた。
「な、何なのよ…野蛮人!貧乏人同士、お似合いね!」
 あゆみはそう言って逃げていったが、ジョーのことが怖かったのか、脚がガクガクして、今にも転びそうなのが滑稽だった。
「高校時代のフレネミーって、今の女だろ?」
 ジョーに問われ、黙って頷いたが、あゆみがジョーのことを貧乏学生呼ばわりしたことを思い出し、
「ごめん…!ジョーにまで嫌な思いさせちゃったよね。だけど、あんな子の言うこと、気にしないで?貧乏学生なんて、失礼にもほどがあるじゃない!親御さんのこと考えて、地元の国立を選んだジョーは、親孝行だし賢明だよ!」
 そう言うと、ジョーは一瞬、驚いたような表情だったが、ふわっと優しく微笑み、
「ありがとな…」
 そう言って、なんだか少し照れているようにも見えた。
「あー…もう嫌なことは忘れて、閉店まで楽しもう!ねっ?」
「そうだな」
 私たちは、嫌なことを忘れるよう、歌って食べて飲んで…すると、意外と早く、閉店時刻になってしまった。
 会計は、ジョーがトイレに行っている間にさっさと済ませた。ジョーは、私が全額払うなんてダメだと言ったものの、
「だって、いつもはジョーが出してくれてたし、今日は最初から私が全額払うつもりで誘ったんだから。私のこと、立ち直らせてくれたお礼がしたかったの」
「そうか…?じゃあ、今回だけはお言葉に甘えるよ、ありがとう。だけど、先に社会人になったからって、毎回香澄が奢ったり、多く払ったりは絶対にしないでくれよ?俺が社会に出るのは、まだ4年以上も先なんだから。薬学部は6年制だしさ…」
「わかってる。私、そこまで気前よくないから安心して」
 そう言うと、ジョーはクスッと笑った。
 並んで歩きながら、
「それにしても…朝だというのに真っ暗ねー!」
「冬至も近いもんなぁ」
 まだ暗いこともあり、私は気になっていたことを尋ねる。
「ねえ…どうして、さっき、あんなこと言ったの?」
「あんなこと?」
「あゆみに、ボンボンから私のことを奪ったって…。嘘つくのも、あんな風に野蛮なふりをするのも、ジョーらしくないなと思って」
「ごめん…」
「責めてるんじゃないの。だけど、ジョーなら冷静に論破することぐらい容易いことでしょ?」
「冷静で居られなかったんだよ。香澄の頑張りをずっと見てきただけに、仕事のことまであんな言い方されて、腹が立って仕方なかった」
 なんだか意外だ。しかし、悪い気はしない…というよりも、素直に嬉しい。