(人間を王妃になんて……いくら魔族全員が家族みたいなものだからといっても、それはないでしょう……)

 カラスに擬態して王宮の周りを飛んでいる今は到底できないけれど、気持ちの上ではラーシュは完全に頭を抱えていた。

 それでも主君が決めたこと。

 あそこまできっぱりと宣言されてしまっては、反対することは不可能だ。

(誰でもいいから結婚したいと思う者がいないのかと尋ねたときに沈黙したのは、誰かを思い浮かべていたからではなかったのですね……)

 魔王のことを分かったつもりで、まだまだだったことに気づかされる。

 嘆息すると、少し諦めもついた。

 そもそも幼少期の魔王にせがまれるままに、人間界の話をして憧れを植え付け、立派な大樹へと育ててしまったのは自分だ。そのことを今さら悔やんだところで、どうにもならない。

(魔界に嫁いでくる花嫁のために、せめて居心地のいい部屋だけでも用意するとしますか……)

 ゆっくり飛びながら窓の奥を覗いていった。