侍従長は今回に限ってはすぐに戻ってきた。

「魔王様、やりました!」

 大きな笑顔で何かを掲げている。

「魔王様に人間から依頼ですよ、依頼!」

「それ、おかしくないか? いくら何でも、さっき話したばかりでタイミングがよすぎる気がする……」

「ですが本当なんですって! 国王が魔王様宛ての親書を持っているのを見たときには、年甲斐もなく興奮してしまいました。国王の気が変わらないうちにと、ひったくってきましたよ」

 カラスに化けている以上、人間と会話はしていないはずだ。

 それでも、魔王はその封書に疑いの眼差しを向けた。

(主人である魔女に頼んだりしてはいないだろうな?)

 人間からお願いが来るのを、魔王城で首を長くして待っていると思われては堪らない。そんな魔王は格好悪い。

「とにかく読んでみてください」

「あっ、ああ……」

 魔王よりも、侍従長のほうが明らかに高揚している。

「ほら、早く! 何て書いてあるんですか?」

「いい歳して、少しは落ち着けって」