「魔王様! ……あっ、この部屋……」

 イーダは召喚された場所を見渡した。

 知っている部屋だった。

(忘れもしない……)

 いい思い出はない、あの儀式の間だった。

「どうしてここに?」

「えーっ、『どうして』って本気で聞いてる?」

 魔王が大袈裟にショックを受けてみせる。

「まさかすぐに婚姻の儀式をするために?」

「そうだよ!」

「魔王様、せっかちすぎません?」

 イーダは笑ってしまった。

「ち、違うよ! ここでずっと待ち構えてたわけじゃないんだ。君が僕を呼ぶ声が聞こえてから、ここに転移すると同時に君を召喚しただけで、」

 イーダは魔王の胸に飛び込んだ。

「マティアス様、私の名前はイーダです」

「イーダ! やっと知ることができた! って、まだ魔法陣も出してないのに、イーダのほうこそせっかちだ」

 魔王も笑いながら、イーダを抱きとめてくれた。