謁見の間まで歩いているときから、魔王はきな臭い空気を感じていた。

(何か企み、それも悪巧みが進行してるな……)

 余すところなく掌握している魔界なら、知りたいと思うことがあれば、思うと同時に情報が集まってくる。

 それに対して人間界では、全てを把握できるわけではないのがもどかしい。

(さっさと魔界に帰って、王女と婚姻の儀式をおこないたいのになー。お礼なんて、やっぱり断っておけばよかった……)

 昨日だって、何度王女にキスしたくなったかしれない。特に薬草の保管庫では、よく耐えたと思う。

(挙句の果てには、ふたりどころか3人も4人も一緒に寝られそうな大きなベッドだったけれども、1台を共有って!)

 心臓はバクバクしていた。

 それなのに王女は魔王の気持ちなど露知らず、安らかに眠っていた。

 その頬を撫でてしまったことは、王女には秘密にするつもりだ。

 あまつさえ、実はおでこに唇を寄せてしまったことは墓場まで持っていかなければならない。