「ユキ…わかったからもう戻れ。」

「嫌だ!今度いつ会えるのかわかんないじゃん!」


少し車高がある車の運転席に座っているまーちゃんのズボンを掴んで離さない。


「ユキ…。」

「………。」

「お前の番号言え。早く。」

「…09…*****4。」

「電話するから。早く戻れ。」



車に乗っていなくても外の風と交わる車の芳香剤の良い香りが流れてきて、

戻りたくなくて、でも本当はお店に戻らなきゃいけないのもわかっていて。



「絶対電話して。今日して。」

「出来たらな。」



約束とは言えない約束をして掴んでいたズボンをソッと離して、少し後ろに下がると

サングラスをかけたまーちゃんが少し口角を上げて、ドアをバンと閉めて車を動かす。


窓から見えるまーちゃんの顔は、夕陽が反射してよく見えなかった。


手を上げていたのか、

うっすらそんな姿を窓越しから見せて、立っている私からエンジンの音を聞かせて車を走らせて行ってしまった。