「ユキねーちゃん」
なにか言いたげだった。
普段から物静かな海未ちゃんは、あまり感情を露にはしない。
アンニュイに見られがちだけれど決して冷めているわけではなく、冷静な判断ができる頼もしい子だ。
「あの…さ。すこし前……千石さん、泣いてた」
「…え…?」
「たまたま見かけて。…泣いてたよ」
泣いてた…?
そんな姿を、帰り道で見かけたと。
「それでハンカチだけでも渡そうと思ったら、逆に渡されてさ」
「……へ?」
「これ、ユキねーちゃんに返しておいてって。ごめん私も部活とか忙しくて遅くなっちゃったんだけど…」
あ…、このハンカチ。
前にボロボロになった千石くんに、せめてもの応急措置をしてあげたときのものだ。
「なんか隣駅のガソリンスタンドで働いてるっぽくて」
「……ちょっと、行ってくるね」
「うん」
どうして何も話してくれなかったの。
アルバイトしてるから、忙しいから学校にも来ていなかったの…?
千石くん。
正直いうと、私はあなたのことは好きじゃないし、理解できない部分がたくさんある。
でも、私はあなたのことも、どうしてか放っておけないんだよ。



