無自覚な彼女はヴァンパイア様の溺愛に気づかない

はっとしたときにはもう遅かったのかもしれない。
彼はこちらを見つけたのか、妖しく口元を歪めた。

一歩、また一歩こちらに迫ってくる彼に慌てて後ずさろうとするも体が動かない…、目線を下に落とすと自分の手が微かに震えていた。
本能で訴えかけている”逃げなさい”と。
でも感じたことのない恐ろしさに自分の体がゆうことを聞かなかった。

「夜中に一人で外に出ちゃ危険だよ?」

自分の方にひんやりした手が当たる。
ふふっと彼が笑う声が耳元に聞こえた。

「俺みたいな悪い奴に捕まちゃうんだから」

その瞬間、ばっ彼の肩を突き放すと生徒会寮へ猛ダッシュ。
え、不審者?でも白百合の生徒だよね?
ちらっと後ろを向こうとしたら居ない…、まさか、と思って横を見るとほぼ私と並列して走っている彼の姿が目に入った。

あっ…

「暴れない暴れない」

くすくすと笑いながら、まるでじゃれつく子どもをあやすみたいな口調なのに、腕を掴む力だけが異様に強かった。

「っ、はなして……!」

振り払おうとしても、びくともしない。
寮まではもう少し。見えているのに、届かない。

「やだなぁ。そんなに逃げなくてもいいじゃん」

彼は楽しそうに目を細める。

「俺、ちゃんと優しくするつもりだったのに」

ぞわり、と背筋が粟立つ。
そのままぐいっと人気のない校舎裏の細い道へ引き寄せられる。

「やっ……!そっちは……!」

「静かにして。
誰か来たら困るでしょ?」

誰が。私?それとも、あなたが?喉まで出かかった言葉は、恐怖で声にならなかった。壁に背中がぶつかって逃げ道がないことをひそかに実感させられた。彼の手が、するりと頬を撫でた。