無自覚な彼女はヴァンパイア様の溺愛に気づかない

おかしい…

スマホの着信履歴に対して折り返し電話をしながら繋がらない電話に胸騒ぎを覚える。

相手は”お兄ちゃん”
いつも、2コールで意地でも通じるのに今日はなぜか通じない。

「おかけの電話は繋がらないところに…」
何回も聞き飽きたコールに掛けなおすのを諦めてしまった。

何かあったのかな…?

そう思って素直に寮に足を運ぼうとしたとき、

ぶるるるるるるるるるるるるるる

ようやく繋がったっぽい電話に安心を覚えながらでる。

「お兄ちゃ…」

「ねぇーねぇーどこにいるのー?」

少し高い声。
能天気そうに問いかける声に静かに恐怖を覚えた。

だ、れ?

プルプルした手でスマホを落としそうになるのを必死に我慢する。
何でお兄ちゃんのスマホから知らない人の声が聞こえるの?

あっ、もしかしてお友達とか。
でも…、こんな時間に、?

嫌な風がうなじの辺りを通り抜ける。
どうかその予感が当たっていませんように…。と思いながら足をはやめる。

校舎を出た瞬間、夜の空気が冷たく肌に触れた。

人気のない中庭。
それが余計に怖くて今更ながら一人で飛び出してきたことを後悔し始めた。

生徒会寮というイレギュラーな寮以外にきちんと男子寮と女子寮がある。
お兄ちゃんは男子寮にいる、はず。

寮までの道のりはわずか5分なのに、
今はやけに長く感じる。


スマホをぎゅっと握りしめた。


──誰かが、立っていた。


銀色の髪が白い光を受けて、ぼんやりと輪郭を照らし、
夜空に溶ける霧みたいに淡く輝く。

制服の白百合の紋章まで、
街灯の光でわざと浮かび上がったように見えた。

…なのに、その顔だけが影をまとっている。



こちらを向いて笑顔なのに、目だけ笑ってなくて、
夜の色の中にぽつんと浮かぶその瞳が、ぞくりとするほど冷たい。