お姫さま抱っこをしながら、お兄さんは王子さまのように、にこりとほほえみかける。

 “かわいい”なんてみんなが言ってくれるのに、シチュエーション効果なのか、ほおがじゅわりと熱くなった。




「反応までかわいいね。純真なお姫さまは大切にしないと」




 くすりと笑って、お兄さんは私を抱っこしたまま歩き出す。

 こっちは私の家があるほうだけど…。




「あ、あの、どこに?私、家に帰りたいんですけど…」


「安心して、俺の仕事をするだけだから。すぐに帰れるよ」


「お兄さんのお仕事…?」




 なにをする気なんだろう、と思っているあいだも、どんどん家に近づいていく。

 お兄さんが足を止めたのは、私が住んでるマンションのエントランスだった。

 ぱちぱちとまばたきしている私を、お兄さんはそっと下ろしてくれる。