ナイルさんは笑って私の肩を抱きながら、リビングに向かった。

 ソファーに座るときも、当然のように今日はとなり同士。

 きゅっと手をつながれたものだから、ナイルさんを意識し続けてしまう。




「今日は俺にはなしたいことがあったんだよね?」


「う…はい…」


「もうこれ以上のことはしないから、はなしてごらん?」


「…ほんとのほんとに?」




 じぃ、とナイルさんを見上げるように見つめれば、その目は細められて、のど仏がごくりとうごいた。

 本能が危険信号を出して目をつむると、3秒経っても変化がなくて、あれ…?と思う。




「本当だよ。安心して?」


「…」




 おそるおそる目を開けると、ナイルさんはにこりと王子さまのようにやさしくほほえんでいた。

 …ずるい。

 いきなり押してきてひとの心をかき乱すのに、そうやってあっさり引くこともできるなんて…。