いつも見上げていた先輩を見下ろしながら、落ちないように先輩の肩に両手をつける。



「めちゃくちゃまずいけど、めっちゃうまい」


「え…?な、何言って…」


「…悪かった。杏のこと突き放して。おまえが俺のせいであることないこと噂されて、避けられてるのを知ったんだ。俺だけならまだしも、杏までそういう扱いを受けていることが許せなかった」


「…だから、私から離れたんですか?」



私のために先輩はわざと悪者になったの?


でもああそうか、と同時に納得する。



先輩はそういう人だから。自分を顧みずに相手を助けようとする。そういう優しい人だから。



「…でも、やっぱり嫌だって思った。俺も杏の隣にいたいんだよ」



先輩が泣きそうな顔で笑って、私のおでこに自分のおでこをくっつけてきた。



「好きだよ、杏。俺と一緒にいるとまた嫌な思いをするかもしれない。…それでも、俺が絶対守るから。幸せにするから。だから、俺と付き合ってください」



先輩の首に腕を回してぎゅーと抱きつく。もうどこにも行ってしまわないように、強く強く。



「…私、全部が普通だけど、それでもいいの?」



先輩はきょとんとしたように私の目を見つめ、ふっと吹き出した。



「杏は出会った時から誰よりも一番可愛い女だ」



離れてしまった距離は、今また近づいた。


あの頃よりもずっとずっと先輩の近くに。



どんなに離れたってもう大丈夫。


私はこの先ずっと誰よりも近くで先輩の隣にい続けるから。





マドレーヌのお菓子言葉…あなたとさらに仲良くなりたい