その名前を聞いた男子生徒がさあっと青い顔をして、二人して慌てて階段を下りていった。



ツーブロックに両耳にピアスを一つずつつけ、両手をポケットに突っ込んだ気だるそうな瞳と目が合った。


その瞳の鋭さと、頰に貼られた大きな絆創膏に思わず身震いするほど「怖い」という感情が出てくる。



「…なんだよ、普通に可愛いじゃん」


「…へ?」



い、今、なんて…?



「あいつらが普通とか言ってたから」



–––「あれ、なんだ。別に普通じゃん」



さっき言われた言葉を思い出し、「え!?」と思わず大声を出してしまう。



「なんだよ?」


「あ、い、いや…」



男子生徒はしばらく私の顔をじっと見つめてから、くるりと踵を返し階段を下りていった。


私は呆然としながら、可愛いなんて生まれて初めて言われた…と、男子生徒がさっきまで立っていた場所を見つめながらぼーと考えた。





「ねえ、翠。天馬って人、同じ学年にいたっけ?」


「天馬…?うーん、知らないな…」