まるで出来の悪い漫画やドラマみたいな設定、本当に存在するんだな。


「何、男の裸で動揺してんだよ」


イマドキの女子高生だからそれなりに経験はあるだろ、と俺は勝手に思っていた。今更純粋ぶりやがって、とこっちの方が本音だな。


「し、知らないよ!結は男の人の裸なんて見たことないもん」


………


「……そうなのか?」ちょっと待て俺、今少しほっとしなかったか?翆の娘であるが俺とは赤の他人なのに、もう娘を持った父親の気分になったのか。あり得ない。


「あたしが嘘をついてるとでも思う?こう見えても身持ちは固いんだよ」


身持ちが固い、なんて随分古風な言い回しをする。


「家出少女で、俺を脅してまで居座ろうとしたし、とっくに経験済だと思ってたが?」腕を組んでふんと鼻息荒く言ってやると


「変態!何想像してんのよ」近くにあったタオルを投げつけられ、それが運悪く腰元に当たった。ゆるく巻き付けていたバスタオルが下に落ち、二人一緒にその落ちたバスタオルに目を向けた。次いで結はそろりと俺の下半身を見ると


「ギャーーーー!!」それはそれは壮絶な叫び声がマンションの部屋中に響き渡ったのも言うまでもない。





つ……疲れた。


何でこの俺があんな小娘に振り回されなければならない。


翆を失って悲しみに浸ることすらできない。


嵐のようにやってきた結の話が事実なら、いや心の中で殆ど事実だと確信しているが、翆は俺の前に男がいたことになる。まぁ、あれだけの美貌だ。男の一人や二人は居ただろうと言うことは安易に想像できたが、しかし子供までなしていた、とは。


考えることが多すぎて眠れなく、俺はリビングで原が去年の誕生日プレゼントに、と持ってきてくれたスコッチを開けることにした。原はなかなかセンスが良い。長い付き合いだ、俺の好みを知り尽くしてると言えばそれまでだが。それでもいくつになってもプレゼントされるのは嬉しくも、少し照れ臭い。そんなことを翆に話したことがある。


『あら、いいじゃない。想われてる証拠だわ。あなたの人徳よ』と彼女はうっすらと笑った。


翆―――


今は何をしようと、翆の顔しか思い出せない。だがしかし、思い出にするには早すぎる。