「カナちゃん、仕事はどう? 忙しいの」
「うぅん、まぁまぁかな。最近はペット可の賃貸も増えたからねぇ」
「そっかぁ。だから、色んな人もいるよね。毎日大変だよなぁ。凄いなぁ。でも、無理はしないでね」
「うん。ありがと」

 キュッと心が僅かに揺れた。

 日々の頑張りを、誰かが気に掛け、寄り添ってくれる。それがどんなに嬉しいことなのか。この年になって、本当に身に沁みる。きっと彼は、単に友人を心配しているだけなのだろう。一緒に住んでいるのだから、尚更に。

 私は、小さな動物病院の雇われ獣医師をしている。特に自分の病院を持ちたいとか、そんな野望を持ったこともない。細々と、生きていく術として働いているだけだ。同じような毎日でも仕事は好きだし、不満は何もなかったのだけれど。何十年とそうしてきた生活に変化が起きたのは、五年ほど前のことだ。学生時代の友人に、ペットフード開発を手伝ってくれないか、と頼まれたのである。

 そんなこんなで、今は会社員としての肩書も得た。タケナカ農場という会社に、週一度だけアドバイザーとして勤務している。本業の休みの時にちょっと行くだけだから、まぁ体の良いアルバイトか。体を休める時は減ったが、これまで出会ったことのないタイプの人や仕事に囲まれて、案外楽しく働けている。多分、私を可哀想だと言った人よりもずっと、幸せだ。

 でも、彼女たちを蔑むことはしない。だって、同じ立場になりたくないもの。