「カナコさん、よろしくお願いします」
五十嵐くんは丸い指で、ずり落ちる眼鏡をクイッと持ち上げた。小さなテーブルで食事を挟んだ作戦会議である。手頃なイタリアンに集合して、四十五分ほど。ようやく、それが今始まろうとしている。
初めは、まるで面接に来たかのようだった。何度もハンカチを額に当て、流れてもいない汗を拭く。何を聞いても硬い言葉しか出ず、まずはモカ様の話をしながら、彼を解きほぐすことからスタートしたのである。そんなに緊張しなくともいいのに、と思ったが、彼にしたら私は第一関門。好きな人とお近づきになるには、私に認められなければいけない。そんなわけないけれど、彼はそう感じているように見えた。
「そう言えば、聞こうと思ってたんだけど。もしかして、暁子を好きになったのって、百合とサンプル持ってきた時?」
そう思ったのは勘でしかないけれど、八割以上の自信があった。私がここに勤め出してから、彼はモカ様を連れてくるようになったし。
「……はい。あの時、百合さんが説明している後ろで、小柄な女性がやってる病院なんだなぁとか思ってたんです。そのうちに百合さんが、カナコさんをうちの会社に誘いましたよね」
「あぁそうだったね。百合に再会して、手隙の時間でいいからって頼まれた」
「はい。でもカナコさんは、初め躊躇っていたと思うんです。その時、暁子先生がケラケラ大きな口を開けて笑って、カナコさんの背を叩いた。大丈夫よ、カナコなら出来るわよ。楽しそうじゃないって。その笑顔が気になってしまって」
暁子は、童顔で可愛らしい顔をしている。色気とは縁遠いと本人は膨れるが、いつまでも少女のように笑えるのが私は羨ましいとさえ思う。私は、すぐに無表情になってしまうから。だから、彼がそこに惹かれたのは、同性の私でも心から理解できた。
五十嵐くんは丸い指で、ずり落ちる眼鏡をクイッと持ち上げた。小さなテーブルで食事を挟んだ作戦会議である。手頃なイタリアンに集合して、四十五分ほど。ようやく、それが今始まろうとしている。
初めは、まるで面接に来たかのようだった。何度もハンカチを額に当て、流れてもいない汗を拭く。何を聞いても硬い言葉しか出ず、まずはモカ様の話をしながら、彼を解きほぐすことからスタートしたのである。そんなに緊張しなくともいいのに、と思ったが、彼にしたら私は第一関門。好きな人とお近づきになるには、私に認められなければいけない。そんなわけないけれど、彼はそう感じているように見えた。
「そう言えば、聞こうと思ってたんだけど。もしかして、暁子を好きになったのって、百合とサンプル持ってきた時?」
そう思ったのは勘でしかないけれど、八割以上の自信があった。私がここに勤め出してから、彼はモカ様を連れてくるようになったし。
「……はい。あの時、百合さんが説明している後ろで、小柄な女性がやってる病院なんだなぁとか思ってたんです。そのうちに百合さんが、カナコさんをうちの会社に誘いましたよね」
「あぁそうだったね。百合に再会して、手隙の時間でいいからって頼まれた」
「はい。でもカナコさんは、初め躊躇っていたと思うんです。その時、暁子先生がケラケラ大きな口を開けて笑って、カナコさんの背を叩いた。大丈夫よ、カナコなら出来るわよ。楽しそうじゃないって。その笑顔が気になってしまって」
暁子は、童顔で可愛らしい顔をしている。色気とは縁遠いと本人は膨れるが、いつまでも少女のように笑えるのが私は羨ましいとさえ思う。私は、すぐに無表情になってしまうから。だから、彼がそこに惹かれたのは、同性の私でも心から理解できた。

