「いや、本当にびっくりしたよぉ」
「宏海、よく気付いたよね。もう三十年以上経ってるよ?」
「そうかも知れないけどさ。分かるよ。全然、変わってないし。それに昔から優しかったもんね」
そう笑った男は、中川宏海。同級生の家の喫茶店によく来ていた、私たちにとって弟のような子だった。勉強が分からないと言えば、得意科目を分担して皆で教え、ゲームをする時にもイベントごとにも、いつだって彼を交えた。初めて出会った頃はまだ中学生だったか。こちらへ向けられる高校生への羨望の眼差し。可愛らしかったあの頃と同じ顔をして、宏海は私の横で一緒に冷酒を飲んでいる。
「優しくなんてないでしょ」
「えぇ、そんなことないよ。優しかったよ。勉強もよく教えてくれたし。あ、カナちゃんは今、何してるの」
「ん、獣医」
「わぁ、宣言通りに獣医さんになったんだね。よく言ってたもんね。獣医になって、世界中の動物を助けるんだぁって」
「やだ……そんなこと、言ってたっけ」
「言ってたよ。僕は、凄いなぁって思ったもん」
懐かしさに乾杯をしたものの、出だしから躓いている。そんな昔の話忘れていたし、世界中の動物を助けるなんて烏滸がましい。だって結局、私は目に見えている動物だけに手を差し伸べているに過ぎない。若い頃に見た夢は、本当に身の丈に合っていないもの。ただ、互いに記憶は学生服だった頃で止まっている。それくらい恥ずかしい過去が出てきても仕方がないよな。そう諦めを付けたら、皺を増やした私たちが一緒に酒を飲んでいるのって、何だかちょっと可笑しい気がした。
「宏海、よく気付いたよね。もう三十年以上経ってるよ?」
「そうかも知れないけどさ。分かるよ。全然、変わってないし。それに昔から優しかったもんね」
そう笑った男は、中川宏海。同級生の家の喫茶店によく来ていた、私たちにとって弟のような子だった。勉強が分からないと言えば、得意科目を分担して皆で教え、ゲームをする時にもイベントごとにも、いつだって彼を交えた。初めて出会った頃はまだ中学生だったか。こちらへ向けられる高校生への羨望の眼差し。可愛らしかったあの頃と同じ顔をして、宏海は私の横で一緒に冷酒を飲んでいる。
「優しくなんてないでしょ」
「えぇ、そんなことないよ。優しかったよ。勉強もよく教えてくれたし。あ、カナちゃんは今、何してるの」
「ん、獣医」
「わぁ、宣言通りに獣医さんになったんだね。よく言ってたもんね。獣医になって、世界中の動物を助けるんだぁって」
「やだ……そんなこと、言ってたっけ」
「言ってたよ。僕は、凄いなぁって思ったもん」
懐かしさに乾杯をしたものの、出だしから躓いている。そんな昔の話忘れていたし、世界中の動物を助けるなんて烏滸がましい。だって結局、私は目に見えている動物だけに手を差し伸べているに過ぎない。若い頃に見た夢は、本当に身の丈に合っていないもの。ただ、互いに記憶は学生服だった頃で止まっている。それくらい恥ずかしい過去が出てきても仕方がないよな。そう諦めを付けたら、皺を増やした私たちが一緒に酒を飲んでいるのって、何だかちょっと可笑しい気がした。

