可愛らしいタワー柄のカップで、コーヒーを飲む中川さん。目の前にいる彼を、俺は今日も不思議な感情で見ていた。その理由は、全て昨夜にある。母さんに聞いたのだ。彼との関係について。

　親のそんな話を聞くなんて、今までは考えたことがなかった。仮に父親が再婚していなかったとしても、考えなかっただろう。彼は、『妻に浮気をされて逃げられた可哀想な男』だった。更に新しい母親と名乗った女は、『血の繋がりのない息子を分け隔てなく育てる優しい女』だった。それが、あの地にいた頃の親(・)だったのだ。

　母さんと再会して、初めて自分ときちんと向き合ってくれる親(・)がいることを知れた。何を聞いても、ちゃんと真摯に答えてくれる。それが、俺を生んだ母だ。だからこそ、聞いてみたくなったのだと思う。二人の本当の関係を。
れないから。

『母さんと中川さんって、どういう関係なの？　夫婦、でいいの』

　いきなり聞くことにした。おいおいね、と言うばかりで、いつも話してくれないから。母さんが身構えないように。

　再会してから、俺たちはたくさん話をした。　聞いて、答えるのに時間が掛かっても、母はきちんと話してくれた。離婚のことも聞きたいけれど、それはあっちの親を見れば察しはつく。だからそれに関しては、本当にそのうちでいい。でも、この疑問だけは早めに聞いておきたかった。中川さんと仕事をしているから、という表向きの理由がある。だが実際は、単純な疑問と興味。言ってしまえば、それだけだった。　

　既読にはなったけれど、答えが返ってきたのは一時間くらい経ってから。恐らく、どう答えるか悩んだのだろう。それでも、きっとまだ濁されるだろうと思っていた俺にとっては、きちんと答えてくれただけ大収穫だ。答えは母らしく、そこに嘘はないような気がした。

『籍は入れていないし、恋人関係でもないの』
『同居人という表現が一番合ってるかな』
『色々と事情があってね』

隠さず、言葉を選んで答えてくれたのだと思う。シェアハウスみたいなものなのかな。一瞬、そう納得しかけたが、俺はすぐに引き換えした。当然だ。中川さんからは、母さんに対する愛を感じるんだから。一緒に住み始めて、そういう感情が彼に生まれただけなのか。『そうなんだ』と打った後で、母さんの本音を聞いてみたいと思った。面と向かっていないことを良いことに、俺は文字を追加して核心を突いたのである。