「ん?」
間宮さんも私の視線を辿って、玄関を見る。
「……私、秘密があるの」
「え?」
間宮さんが、私を見つめた。
私も間宮さんをまっすぐに見る。
今年、三十歳になる間宮さん。
有名な食品会社の営業職で、疲れて帰って来た今でも、スーツ姿が凛々しい。
優しくて、正義感が強いから。
私がしつこいナンパに絡まれている時。
助けてくれた。
怖い思いをした私が落ち着くまで、そばにいてくれた。
そんな優しくて、包容力のあるところ。
あの時から、今でも変わらず大好きなんだ。
「由花?」
「間宮さんに、嘘ついてるの。ごめんね」
「……嘘って?」
あの時。
間宮さん、勘違いしたんだよね。
私が。
社会人の、大人の女性だって。
その勘違いに、私はのってしまった。
「私、本当は社会人じゃない」
思ったより小さな声で、でも、とうとう伝えた。



